第13話 龍玄との会食
いよいよ総大将との会食の日程が決まった。
孫の恵子と曾孫の葉月、さらに親である息子の龍之介と妻のクリスティーナが同席することになった。この会食が終わってから初めて親族一同が揃う親睦会になるのだろう。
そこですかさずその情報を掴んだ美咲から連絡が入った。
『恵子ちゃん、お祖父様に会うのは久しぶりでしょう?シングルマザーで子育てして色々苦労したんだから、少し女として磨きをかけなくちゃ心配されるわよ!』
『そうよね〜。葉月を育てるのに精一杯で自分磨きまで手が回ってなかったかも。どうしよう』
『全てこの私に任せなさいよ!葉月を変身させたみたいに魔法をかけてあげる』
『嬉しい!でも良いの?迷惑じゃない?』
『何言っているのよ!可愛い恵子の為じゃない。ピカピカに磨いてあげるわよ!』
素直に喜んでいる母恵子の横で、何やら企んでいるような美咲に一抹の不安を覚える葉月だった。美咲は葉月の心配顔にウインク一つ返す。
『葉月ちゃん、その疑いの目は何?』
『別に美咲さんが親切過ぎると何かよからぬ事を考えてないかな〜と心配になっただけです』
『うふふ、人を信じ過ぎるのは危険だけど、私はそんなに悪人じゃないわよ』
実に怪しい。でもお母さんが綺麗になってくれるのは嬉しい。スタイルも良いし磨いたら光るのは間違いないと娘でも思うからここは美咲さんに任せようと頭を下げた。
『そうそう、葉月ちゃんもお母さんと一緒に磨くから、安心してね!』
『え〜私は大丈夫ですよ』
『さぁ、それじゃ車を待たせているから出かけるわよ』人の話を聞いちゃいない。
拉致される勢いでサロンに連行された。以前友達と変身コーナーで連れて行かれた所よりグッとグレイドが上がっている感じだ。
『凄い!ゴージャスな感じですね!』
『そうでしょう。これからはファッションだけじゃなく、美容から全てトータルで女性を美しくする場所が必要になるのよ。コンプレックスを持っている人を救済して、人生を明るくしていける産業を起こす!ムーブメントを起こすつもりなの』
『素敵な考えですよね!でも・・・』
話をしていたらそこに龍子叔母様がご主人の天神さんといらした。
葉月と美咲の会話を聞いていた恵子が慌てて
『大変ご無沙汰しています龍子叔母様。叔父様まで今日はどうしたのですか?』
『あら恵子ちゃん、本当にご無沙汰だったわね。美咲から恵子ちゃんと今話題の美少女娘の葉月ちゃんが変身しに来るって聞いて会いに来たのよ』と龍子が応えた。
『どうも初めまして、僕は天神清隆です。葉月ちゃんの武勇伝はネットで拝見していてどうしても会って見たくてね。妻と一緒に来てしまいました』と笑って挨拶されて恐縮する葉月。
『さぁ、挨拶も済んだところで早速変身開始しましょうか』と手をぱんぱん叩いて促す美咲。
どうも何か仕組まれているような感じはするけれど、もうここまできたら覚悟決めて流れに身を任せるしかない葉月だった。
後日判明した事だが、母と娘の変身コーナーは、バージョンアップしてヘアメイクだけじゃなく、その前のお肌の手入れから始めると一段と美しく変身できるし、さらにカラー診断で自分に似合う色を発見すれば、服をコーディネートしやすくなって失敗がなくなる事等。トータルビューティーの必要性を訴える動画が作成されていた。その美の殿堂が麻布に完成した事。コンプレックスを持った若者達の駆け込み寺として大々的にPRされていた。今話題の美少女葉月とそのママがモデルになっていたのです。
今や雑誌よりSNSの時代に突入していて、若者はこぞってネットから情報を引き出す時代。
産業も変わりつつあるのです。
高校卒業後に駆け落ちして家を飛び出した孫の恵子とシングルマザーで一人苦労して育てた娘の葉月に会うのはなんと14年振りである。
何不自由なく育った娘が駆け落ちしてまで愛したはずの男に捨てられて、どれほどの困難を乗り越えてここまで生きてきたのだろうかと不憫で仕方ない。だが、泣き言を言わず親を頼らず生きてきたのはあっぱれだとも思う。しかもシングルマザーで育て上げたその娘は、本当に素直で頭の良い子に育ってくれた。良家の子女として育った事をしっかり娘にも教育してきた事が流石に百合崎の娘だと自慢したい。
孫の事が心配で、陰からずっと見守ってきた龍玄だが、獅子は可愛い子供を谷に落として自分の道を他人に頼らず自分で切り開けるように育てるものだと信じてきた。その試練を乗り越えてきた恵子と葉月は自慢の娘達だ。
とにかくこれまで色々あった事は想像に難くないが、全ては水に流してこれからを幸せに生きて欲しいと願う劉玄である。
そんな龍玄の気持ちを知ってかどうか、会食のために訪れた龍玄の屋敷に入る4人の緊張はピークに達していた。
『パパやママまで一緒に呼ばれるなんて。私絶対お祖父様に殺されちゃう』
緊張した母を見るのは久しぶりだ。今まで泣き言すら言わずに頑張ってきた母しか知らない葉月にはとても新鮮に映った。百合崎の家に帰ってから、肩肘張らない娘時代に戻ってしまったみたいな感じでホッとする。
『美咲さんが、お母さんを磨いてくれて正解だったね。お祖父様に疲れた顔を見せるのは嫌でしょ!心配させちゃうから』
『そうね。お陰でお祖父様に会うのも少し気が楽だわ』
『さぁ、お前たち明るく元気な顔で父さんの前に行こう!きっと喜んでくれるから』
『そうですよ!お父様は鬼じゃないんですから。こんな可愛い孫や曾孫に会えて嬉しくない訳ありませんよ!』クリスティーが明るく背中を押した。
さぁ、出陣だ!
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