第11話 総大将動く

女子中学生痴漢撃退の文字が面白可笑しく取り上げられた時に、まず行動を起こしたのは百合崎グループの総大将龍玄だった。

龍玄は、秘書の剣山に命じて密かに駆け落ちした孫、恵子の動向を探らせていた。

ゆえに、龍之介のところに葉月が戻ったことも知っていた。

彼らがどう行動するのかを見守っていたのだ。

しかし、このままマスコミが動きだせば色々と腹を探られることになる。

待っていたのでは、遅いと判断したときには全ての手配が終わっていた。

まず、恵子のところに剣山が現れた。

有無を言わさずに、恵子は龍之介の屋敷に引越しが決まり、葉月と共に暮らすこととなった。

恵子のスキャンダルには封印。

何事もなかった・・ことになる。

屋敷で、家族が暮らすことは当然。

そして、恵子と葉月が呼ばれ、総代龍玄との食事会が設定された。

可愛がってもらった祖父との面会。

不義理をしていて、会えなくなった日々を思い起こして恵子は涙ぐむ。

葉月は初めて会う、大おじい様に多少の緊張を覚えて硬くなったいた。

「どんな人?」

母に尋ねてみた。

「家族の絶対的、権力者なのだから。大男で威圧感の塊で、人を目で殺せそうな人・・ではないか?と思うけど?」

久しぶりに母が母らしく健康な笑顔で答えたのは

「うーん、そんなに怖いようには見えないのよ」

「でも、その第一印象通りではない・・恐ろしい人。かな?」

何言ってるのか・・

「え?どう言う事なの?」

「それは、会ってみて、あなたの判断を聞かせてね」

母は、それ以上話してくれなかった。

ま、自分もそれどころじゃないしって感じかな。


でも今回の騒動で、思ったより早くお母さんと一緒に暮らせるようになって幸いだ。

おじいちゃんもおばあちゃんも大喜び。

晴れて、娘の恵子と孫と一緒に暮らせるのだから。

どうも、おじいちゃんはちょっと、総大将には絞られたらしいけど・・

片目をつぶって笑ってた。

屋敷が華やかになって、なによりだよ・・だって。


葉月と恵子、親子でお風呂に入ってやっと寛いだ、

「ところでお母さん、引越しどうだったの?」

「それがね、総大将の秘書の剣山がすべて取り計らって、私はリムジンに連れ込まれてパパの屋敷に戻された・・って感じなのよ。ちょうど、誰もいなかったからね。

あっと言う間だった。」

「そう」

「パパもママも変わってなくて、ちょっと怒られちゃった。」

ペロっと舌を出しながら、

「14年も家出した娘よ。子供もいるのに、親はいくつになっても親なのねぇ」

「ところで、葉月はどうだったの?」

私?

「ここに来る時は、決死の覚悟だったのよ」

「お母さんを認めてもらって、仲良くしてもらいたい・・って」

「いつかは、家族で笑って暮らしたい・・その為に大おじいちゃんに認めさせるんだって。」

「それが、あいつのせいで」

「お母さんには悪いけど、あいつは最低だったよ。」

「ごめんねぇ」

「葉月が急に出て行ったとき、何かがあったとわかったの」

「でも行き先はきっと、百合崎だと思っていたから・・そんなに心配はしてなかったのよ」

「あの男はすぐ追い出したんだけど・・」

「葉月を付回すなんて・・」

「本当にばかな男」

「でも、名門中学生にしては、豪快な手柄だったわね」

「TVで見たとき、噴出しちゃった」

「今、思い出しても受けるわ」

恵子がお腹をよじって笑った。それを嬉しそうににながら

「今ね、合気道を習っているの。護身術にも良いし、精神力も鍛錬できるのよ」

ちょっと誇らしげに胸を張る。

「へぇ・・役に立って良かったわね」

「私も習おうかな?」

「良い、一緒に習おうよ!」

久しぶりの親子水入らずのお風呂で、きゃきゃとはしゃぐ二人だった。

これからはもう少し、気楽に過ごせるような気がする葉月である。




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