第6話 ネット

学園生活が落ち着いてきたように思われた時。

朝、学校に着くとクラスの雰囲気が変だ。

遠巻きにヒソヒソと話し込んでこちらを伺っている。

何があったのだろうか?

すると、茜の取り巻きの一人が

「あんた、学園長の親戚か何かなの?」

「なぜ?」

「ちょっと、あんたを見かけた人がいるのよ」

どうやらこの好奇心のこもった目をごまかすのは無理そうだ。

「まぁね、縁があって預けられているのよ。」

「ふーん。そうなの」

完全には納得はいかないようだが、取りあえず説明を信じてくれたらしい。

さて、これで苛めようにも学園長の知り合いではおいそれとは手が出せないだろう。

どう出るのか・・・


しかし、これだけでは終わらなかった。

どこで調べたのか、学園長の勘当された娘恵子の事がばれた。

当たらず触らず封印されてきた禁断の話。

どうも、その恵子の娘ではないのか・・と言う憶測も流れた。

スキャンダルの尻尾を捕らえたとばかりに

「親がふしだらだと娘にも遺伝しそうよねぇ」

意地悪な目をして茜が声を潜めて耳元で囁いた。

そうくるか・・

そう言う面白いネタはあっと言う間にクラスを駆け巡る。

ラインやツイッターで流出は早い。

しかし学園長絡みでは、思い切っての行動はさすがにできないようだが。

茜の機嫌が良いのも分かりやすい。

葉月は気にせず、勉強と合気道に励んでいた。

頭と体のバランスが精神力を補ってくれる。

目先の小さな問題にかかずらわっているほど、暇ではない。

虐めと言うのは反応があればこその面白みがある。

相手にされないと、自然消滅するものだ。


しかも、学生時代であれば学業がものを言う。

編入してきて期末テストは・・学年トップ。

これには、茜も嫌味の一つもでない。

運動能力も高く、明るく話しやすい。

いつしか、クラスでも人気者。

苦労を知っているだけに、優しく面倒見も良い。

甘えてくるやつに、時には厳しいアドバイスも。

甘すぎず・辛過ぎず・・決して本心は見せない。

不思議な魅力がある少女へと、育っていった。


ある日、虐めのターゲットにされている女の子に出会った。

彼女は話す時、相手の目を見ない。

暗い。

その自信の無さが人をイライラさせるのではないか・・と思えた。

葉月は睦子に声をかけた。

「斉藤睦子さん?」

彼女はビクッとして固まった。

「ごめん、急に話しかけて」

「ううん、良いの」

下を見ながら、もそもそと返事をしている。

「私、葉月。編入してきて、まだあまりクラスに馴染めないの。よろしくね」

「知ってる。でも私とあまり話さない方が良いよ」

「なんで?」

「私といると貴女まで巻き添えになるから」

「変なこと言うのね。そんなの気にしないよ」

「・・」

睦子はもじもじと黙ったままだ。

「ねぇ、むっちゃん。このままで悔しくないの?」

「・・むっちゃん?」

「そう、言いやすいし・・嫌?」

「別に、良いけど」

「じゃ、私のこともはっちゃんとかハズキとか」

「はっちゃんは可笑しいよ」

睦子は笑った。笑顔の方が似合うな・・と思う。

「だよね・・良かった。じゃ、ハズキで」

なんだか、打ち解けて嬉しかった。


次の日、睦子の様子がおかしい。

「むっちゃん、何かあったの?」

「別に・・」

逃げるように足早に去って行った後姿を見て

誰かが何かを仕掛けたのだと思った。

睦子の様子を見ていると、どうやら茜たちが関係しているらしい。

睦子がビクビクしている。

何を脅されているのだろうか?

気にはなるが、今のところ手を出せそうもない。

さりげなく、観察をする。

すると、放課後の校舎に呼び出された睦子が顔を腫らせて戻ってきた。

葉月は睦子をトイレで捕まえた。

「むっちゃんが自分の意思で私を避けているなら何も言う気はないよ。でも、何かあるなら私に相談してくれる?」

「・・・・」

「友達でしょ?」

ハッとして顔を上げた睦子の目に涙が・・

「ハズキと話した次の日、茜ちゃんが話しかけてきてお茶に誘われたの」

「それで」

「茜ちゃんに逆らうのは、とても難しくて。お茶に行ったらペンダントをくれたの」

「あたし、そんな事初めてで嬉しかった」

「・・・・」

「そうしたら、ペンダントは私が盗んだ・・って言われて」

「茜ちゃんたちの取り巻きも一緒に騒ぎだして・・」

「私、怖くなって逃げちゃった。」

「それで、脅されたのね。」

「ハズキと近づかないように・・って。」

やっぱりそう言う事か・・

「で、ペンダントはどうしたの?」

「返した。」

「そう、それなら堂々としていれば良いよ」

睦子は不安そうだ。

人間って、虐げられすぎると判断が鈍くなるらしい。

そこを苛める輩は必要に攻めてくる。

精神力が大事なんだけど、一人じゃ気がもたない。

「むっちゃん、今のままじゃ駄目だと思う。自分を変えてみない?」

「私はハズキみたいになれないよ!」

睦子は悲鳴のように反論した。

「大丈夫。私が変われたんだから。任せて!」

まずどうすれば良いのか?

内面までは急に変われない。

だから、外見から。

女の子は自信が付けば別人になれるものだ。

「まずは、髪型を変える」

暗いイメージの一新。

眉毛を整える。

叔母さんに教えてもらった美容室に行き、睦子の変身を手伝ってもらう。

その代償は、前から拒んでいた叔母さんのブランドで手伝う事。

学業優先だから、あまりこき使われないとは思うけど。

初めてできた友達のためだ。覚悟はしている。


叔母さんは気前良く、スタイリストも紹介してくれた。

葉月も一緒に、美容室デビュー。

スタイリストのミーサに付き合ってもらっての買い物。

睦子と二人で変身ショーを楽しんだ。

しっかし、馬子にも衣装とはよく言うものだ。

髪型と服装が変われば、これが根暗の睦子・・とは誰も思うまい。

睦子も変身が効いたのかすっかり美少女デビュー。

自信のなかったのが、嘘のよう。

人は、変われる!

「むっちゃん、さっき悩んでいたのが嘘みたいだよね。」

「奇跡と言うかイリュージョンだよぉ」

心から、楽しむ二人だった。

これがまたまた、事件になるとは・・この時知らなかった。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る