第5話 白百合中等部

夏休みが終わって、9月。

始業式の後、中等部に編入した宅間葉月の紹介があった。

名前が違っているので、大した騒ぎにはならなかった。

葉月の容姿が日本人離れしていて、男子生徒が騒いでいた。

クラスの女子の中にはそれを面白く思わない者もいる。

特に、幼稚舎から白百合のお嬢様、鷺宮茜は葉月を良く思わなかった。

「外見が多少良くてもお里がしれちゃ、仕方ないわよ」

「白百合の生徒として、どうかって事よね」

茜の腰ぎんちゃく達が、ワイワイと言いがかりをつける。

葉月は女子の嫉妬が面倒な事を知っているから伏目がちにやり過ごしていた。

ここは、目立たず、大人しく言わせるに任せたほうが賢明だと。

まずは、無難に学園生活が送れれば良い。

それだけ。

編入させてくれた、祖父に迷惑はかけられない。


葉月は、夏休みの事件を忘れる訳にはいかなかった。

自分の身は自分で守る。

護身術でもある「合気道」を習う事に決めた。

合気道とは、人間が本来持っている最高の能力を発揮し、その力で相手の心と体を自由に導く武道。

1、気が出ている。

2、相手の心を知る。

3、相手の気を尊ぶ。

4、相手の立場に立つ。

5、率先窮行


さらに気のクラスでは

1、気の不動法・・何事にも動じない、心身統一体の会得法

2、気の体操法・・リラックスを会得する為の体操法

3、気の呼吸法・・真の健康体を会得する為の全身呼吸法

4、気の意思法・・心の安らぎを会得する為のメディテーション

5、気の健康法・・気の原理に基づいた健康法


ネットで「合気道」を調べて、習いたいと思っていた。

無駄な力を使わず、効率よく相手を制する。

相手の力と争わず、相手の攻撃を無効化し、年齢や性別・体格・体力に関係なく相手を制する事が出来る。

独自の精神哲学で纏め直した,体術を主とする総合武道。

求めていたものに出会えた気がする。

精神的にも肉体的にも成長できそうな気がした。


祖父の龍之介に『合気道」を習いたい旨をプレゼンテーションした。

祖父母も喜んで、修練に通うことを賛成してくれた。

費用も安心して良いと。

学術も今まで以上に、安心して励むように。

何も気にしなくて良いのだから・・と言ってくれたのだ。

葉月の部屋は、恵子が使っていたところを使うようにと用意してくれた。

母がいかに苦労したのか、なおさらながらに思う。

広い部屋は、恵子が出て行った時のまま綺麗に整頓されていた。

きっといつ帰っても良かったのに違いない。

両親は娘が泣きついて戻って来ても許してくれた。

今なら、それが分かる。

でも、母恵子はそれをしなかった。

自分を律して、決して泣き言を言わなかったのだ。

きっと、無理してたんだな。

だから、どこかでタガが外れちゃったんだ。

どこか自暴自棄な気がするのはそこからきていたのかも知れない。

自分にもう少し、力がついたら早く母を迎えに行こう。

二人で今までの非礼を総代龍玄に謝ろう。

母を許してもらえるように、自分はもっと強くなりたいと、心に誓った。

葉月の秋は始まったばかり。



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