第4話 白百合学園

母恵子が、駆け落ちして勘当されている実家に頼る気はなかった。

ただ、孫の自分が母と両親の絆の橋渡しができないか・・と。

密かに連絡をとった。

小学生の高学年。

戸籍謄本を取り、祖父・祖母の名前等を確認した。

百合崎龍之介・クリスティ。

白百合学園の理事長である事も、調べがついた。

最初は愕きだった。

白百合学園は子供でも知っていたのだ。

突然に、孫だと言ったところで信じてもらえるのか?

心配もあった。

12年間も音信不通で放置されてきたのだから。

葉月は自分の戸籍謄本と、母と写した写真と手紙を添えた。

「駆け落ちしてから、母恵子が親に合わす顔がないと歯を食いしばって自分を育ててくれていること。この手紙を書いている事は母に内緒であること。お金の無心では決してないこと。」

返事は期待してなかった。


暫くして、祖父の龍之介から手紙が届いた。

「いままで、連絡がなくて本当に心配していたこと。母恵子がずいぶん大人になったこと。意地をはっているなら、仕方ない。昔から、変に頑固で負けず嫌いであったこと。本当に必要になったら、いつでも頼ってくるように。」

と書かれていた。

葉月は大切にその手紙をしまった。


中学生になり、進路を見据えて考えた時悩んだ。

このまま母と一緒に意地を張り通した時、大学に進んで勉強することができるのか?

希望するなら、法学部で弁護士を目指したいと思っている。

母を支えるためにも、安定した職業に付きたいと思う。

お金がかかるし、中学生では大したアルバイトもできない。

「祖父に相談してみようか?」

母にどう相談して、それを切り出したものかを悩んでいた。

そんな時、事件は起きたのだ。

このままでは、自分の人生が駄目になる。

決心が決まった。

その日のうちに、家を出て祖父の許へ向かった。

母には、一通の手紙を残して。

「ごめんなさい。今は一緒にいられない。必ず迎えにくるから。お母さんも自分の好きなように生きて下さい。今まで育ててくれてありがとう。」

それだけで、母には分かるでしょう。

今が、親子二人決別の時。

女それぞれが、幸せを求めて旅立つ時。

母恵子が手放した場所へ、娘葉月が向かう。


祖父の許へ着いたとき葉月は言った。

「訳あって、母の許にいられなくなりました。ご面倒をお掛けしますが、ここで暮らす事をお願いできますか?」

自分の身が危険であること。

進路希望・そして将来は弁護士を目指すこと。必ず、かかった教育費を弁済するつもりでいること。

色々話して聞かせた。

龍之介は娘恵子が、しっかり母親として子供を育てたことを知って嬉しかった。

葉月は恵子に似て、スタイルの良い美人で、利発な事も気にいった。

妻クリスティは泣き通しだ。

本当は彼女は恵子を探し出し、連れ帰ることを希望していたのだ。

だが、総大将の龍玄がそれを許さなかった。

恵子には2才年が離れた弟修司がいた。

修司は早稲田の法学部を出て、現在若手で人気の弁護士になっていた。


葉月が将来弁護士を希望していると聞いて、嬉しそうであった。

そこで、中学で学年トップなら問題なく白百合学園に編入できる。

今は夏休み。

丁度、秋から編入すれば区切りも良い。

話は思っていたより、トントン進んでいた。

あまり詳しくは聞いてこなかったが、大体の筋は分かっていたようだ。

葉月の性格から、余程の事が無い限りSOSを発信しないと祖父達は分かった。

9月から、葉月の学園生活が新たに始まる。




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