第8話真実

アリックのお祖母ちゃんの家に付くと温かいお茶を出してくれた。

「さて、新顔さんがいることだし自己紹介しとくかね。アリックの祖母のマリアだよ。よろしくね。」

「ユウヤです!よろしくお願いします!」

「元気がいいねえ。さて、どうしてここまで来たか話して貰おうかね。アリックが来るってことは、何か良からぬことが起こったんだろうけどね。」

「察しが良いな。実は・・・」

ゴードンさんはこれまでの出来事を神妙な面持ちで話した。

「王が殺されたのかい。それはまたずいぶん大事だね。・・・。」

マリアさんはなにやら考え込むと溜め息を一つ吐いた。

「アリックや、そろそろ話してくれてもいいんじゃないかい?少なくともこの二人はあんたを信用してここまで付いてきてくれたんだろ?あんたもその気持ちに応えてやらんとね。」

「はい。」

アリックは覚悟を決め、重い口を開いた。

「朝日が昇る少し前に兵士が一人僕の部屋を訪ねてきて、陛下が呼んでいるからすぐに行くようにと言ったんだ。それで謁見の間に行くと部屋は真っ暗で何も見えない状態だったから「陛下、居られますか?」と言いながら歩みを進めると何かを踏んづけた。何かと思いそれを拾ったんだ。そしてゆっくり進むと何かに躓いて前に倒れると何かにぶつかった。「うっ・・・」と声がしたと思ったらジダンが「陛下居られますかな。」と言いながら入ってくると部屋の明かりが点いたんだ。はっとした僕は目を疑った。血塗れで椅子に座っていた陛下と僕は血塗れの短剣を握っていた。それを見たジダンが僕が刺したと・・・。」

俺は息を飲んだ。それって・・・。

「あんた、そりゃ嵌められたね。まず、あんたは喋りながら部屋を歩いているのにも関わらず王は返事をしなかった。そしてあんたが拾ったであろう短剣がなんで謁見の間に落ちているんだい?それに謁見の間には躓くようなものは何もないのにあんたは転んだ。つまり誰かがあんたを転ばせたのさ。ずいぶん雑だが結果的にあんたを嵌めれた、それで十分なのかもしれないね。」

「そうだったとしても言い逃れは出来ないよ・・・。」

「があぁぁぁーーー!!なんだそりゃぁ!ふざけた真似しやがって!誰だ!そんなことした奴はぁー!!」

「状況から見て、間違いなく大臣だろうね。タイミングが良すぎる。他に協力者がいるかもしれんが。」

「あんの野郎ぉ!ただじゃすまさねぇ!今すぐ行ってぶっ殺してやる!」

「落ち着きな、馬鹿。それこそ大臣の思う壺さ。」

「それじゃぁどうすりゃいいだ!黙って指くわえてろってのか!?」

「せめて証拠があれば・・・。」

「簡単なことさね。大臣を誘導して大臣の口から直接言わせればそれまでさ。」

「お、おお。すげぇな婆さん。」

「でも今メグを助けに行ったところで数では敵わない・・・。」

「それもそうだ。一体どうすれば・・・。」

「・・・一つ昔話でもしようかね。」

「なんだよ、婆さん。こんなときに。」

「いいから黙って聞きな。」

「遥か昔、クロノスとマニアという二人の神がいた。二人は仲睦まじく暮らしていた。ある日、クロノスは二人じゃ寂しいからと他の命を作りたいと言った。マニアは今のままで十分だと反対した。しかし、クロノスは反対を押しきり人間を創った。マニアはそれに激怒し人間を消すためにモンスターを創った。そして人間とモンスターの永い戦いが始まった。永い戦いの末、クロノスとマニアは力尽き今でも人間とモンスターの戦いが続いている。」

「誰でも知ってるおとぎ話じゃねぇか。そんなの聞かせて・・・」

「この話には続きがあるのさ。」

「続き?」

俺は初めて聞くけど、アリックとゴードンさんは聞いたことがあるらしく続きとやらがあることに驚いていた。

「永い戦いの末、力尽きてしまうとみるとクロノスは自分がいなくなっても数が減らないように人間に繁殖能力を与え、人間の数が減るのを極力押さえるために要塞を造った。そして自分の力の一部を要塞の地下に封印し力尽きた。同じく力尽きてしまうとみるとマニアはモンスターに繁殖能力を与え、自分の力の一部を一体のモンスターに宿し力尽きた。二人の神が力尽きたあとも人間とモンスターの戦いは続いた。そしていつしか戦いは治まっていった。激しい戦いがなくなると人間の3分の2は戦うことを一切辞め要塞に籠った。戦いを辞めなかった残りの人間は士気を上げるために一人の青年にクロノスという名を付け、神の名のもとに戦い続けた。そして人間とモンスターの戦いが終わりに近付いた頃、クロノスが1体のモンスターを倒した。しかし、そのモンスターから禍々しい気が流れ出てクロノスを飲み込んだ。するとクロノスはモンスターと化し人間を襲った。人間は命からがら逃げ、要塞へ籠った。クロノス青年の子供を再びクロノスと名付け、王として皆の希望になった。そして今でも終わることがない戦いをいつしかメビウスの戦いと言うようになった。」

「・・・。」

アリックもゴードンさんも俺も黙りこんだ。壮大な話にはもちろん、どう受け止めていいか解らなかった。すると、ゴードンさんが口を開いた。

「いや、でも、おとぎ話なんだろ?それを聞いたところで別に何も変わりゃしねぇだろ。」

「おとぎ話なんかじゃありゃせん。これは実話さね。」

「実話って、なんで婆さんが・・・いや、なんで婆さんしか知らなかったんだよ。」

「あたしがまだ幼かった頃、城を探検するのが好きだったんじゃ。あるとき城の地下のさらに地下があることを発見してね。そこには神々しい剣が一本突き刺さっておった。それに触ったあたしの頭の中に今話した風景が流れ込んできてね。世界の真実を知ったのさ。あたしは絶望したよ。みんなが一生懸命戦っているのにあるモンスターを倒しちまうと倒した人間がモンスターになっちまうんだ。大人になったあたしは再び剣があるとこへ行った。もしかしたらこの剣がクロノス神が力の一部を封印したやつなんじゃないかと思ってね。でも抜けなかった。そして誰にも話すことが出来ずに今日まで生きてきてしまったのさ。」

そう言うとマリアお婆さんは悲しい表情を浮かべた。

「・・・。」

俺達はまた黙りこんだ。すると今度はアリックが口を開いた。

「今の話をまとめると、クロノス神が造った要塞というのは今の王都エデンのこと。クロノス神が要塞の地下に力の一部を封印したというのは恐らく、お婆さんが見つけた剣で間違いはないと思う。昔の人がクロノスと名付けた青年とその子供は僕の先祖。そして倒すことが出来ないモンスターはマニア神が力の一部を宿したモンスター。って感じか。」

おお、分かりやすい。

「おお、分かりやすい。」

声に出てた。

「だからなんだよ。結局どうしていいかは分かんねぇまんまだろうが。」

確かに。ゴードンさんは呆れながら言ったがアリックは違った。

「いや、人とモンスターの戦いは元々神同士の争いから始まってるわけだよね?倒すことが出来ないモンスターにはマニア神の力が宿っている。だったらクロノス神の力が宿っている剣を使えば倒すことが出来るんじゃないかな。」

「お、おお。すげぇ!絶対そうだよ!」

俺は興奮が抑えきれなかった。

「さっきも言ったがすでにあたしが試したんだよ?でも抜くことが出来なかった。」

た、確かに。また黙りこんだ。

「・・・それはそうかもしれないけど、そう考えるしか戦いを終わらせる方法はないんだ。賭けてみるよ。」

「そう・・・だな。賭けてみるか!それで、どうすんだ?その剣は城の地下の地下にあるんだろ?今の俺らじゃ手出しは出来ねぇ。」

「確かに・・・。」

「全くあんたらは・・・。分かったよ。あたしもあんたらに賭けてみるさね。これもあたししか知らないことだが、城の地下には抜け道があるんだよ。そこを逆に辿れば城内に入れるさね。」

アリックもゴードンさんも俺も驚いたが希望が見えた。

「場所は平原の端の方にある小さな高台の下に隠し通路がある。そこは、見つからないよう岩でうまい具合に蓋がしてあったはず。気を付けて探すことだね。」

俺達の目標が明確になった。城に忍び込み剣を抜き、メグを助けて大臣の悪行を明らかにする。そしてマニア神の力を宿したモンスターをクロノス神の力が宿った剣で倒す。そうすれば俺は帰れるかもしれない。

「今日はもう遅い。明日のために早く寝とくんだね。忍び込むには夜の方がいいだろうから夕方くらいに平原の高台に着けばちょうど良いさね。」

「そうします。」

俺達は明日に備えて眠りについた。

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