3歳の年 おおよそ、世界で一番苦手な姉。

あの満月の夜をしのぎ切った。

生き延びたのは偶然なのか、それとも。


「さて、着きましたか」

しかし、本当に思う。

「ええ、未だに堅っ苦しくて仕方がない我が家にようこそ」


「どうして、こうなった……?」

時に西暦983年7月。


分家の次男から、本家の長男にランクアップ致しました。

なんでだろう、ほんと、なんでだろう。


暗殺者の送り先(分家長男)から離れることができたのは幸いだ。

しかし、しかしだ。


本家長男って、状況酷くなってない?


因みに、橘氏本家はつまり現状の橘氏長者を輩出した家。

分家はそれ以外ということになっている。

本来ならばもっと複雑なのだが、まあそれは置いといて。

本家といっても最も一族の中で力があるというだけ。

没落気味の一中流貴族の本家などたかが知れている。

政治的配慮やら金銭等援助など基本的に優先されるという。

割とお得感があるだけのハリボテである。

まあ、正当な権力の笠が一体今どれだけあるのかは知らないが。

ああ、やめやめ、考えるだけ無駄。


ああそうです。

私は今、養子であるにせよ、現橘氏長者の弟という立場にいるんです。


つまるところ暗殺でも政治的処断でも現橘氏長者に何かあった場合。

ソレすなわち私に橘氏長者の座をスライドさせられるということ。


ザックリ簡単に言えば次期後継者である。

何やら盛大なゴタゴタがあったそうだが知らない。


生き残った後に闇に消えるようにどっかいった暗殺者とか知らない。

その後元両親と何やら怪しげに笑い合う現橘氏長者なんて知らない。

暫くして帰ってきたら返り血の香りがする元世話役なんて知らない。


私は何も見ていない聞いていない。

誰が何と言おうと、私は本家の長男であり、正当な橘氏継承権第二位である。

そういうことになった。なってしまった。

そう、この現実からは逃げられない。


さて、おそらく盛大に歴史を変えてしまったかもしれない。

歴史が動いている中、私は一人現実逃避気味に遠い目をしていた。


拝啓、この時代に私を生まれ変わらせた?誰かへ。

いかがお過ごしでしょうか、私は今のところ元気です。

あなたはおそらく私を見守ってくれていることと存じますので、一言だけ。


おぼえていろよ。


以上で暑中見舞いと代えさせていただきます。敬具


……ああ、この先生き残れるかなぁ。

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