マイナス 姫と翠

生まれたときから憧れていた。とはいえ私は籠の鳥。

逃れることも羽ばたくこともできないのだ。

そう、思っていた。

私は満ではなく、空であった。

周囲に求められるまま振る舞う。

それはまるで人形のよう。


何かに不自由したことがなければ、何かに自由であったこともない。


あらゆる柵が私を縛り付ける。

それでも私は笑っていた。


いつだっただろう、手のひらを爪で傷つけたのは。

どこだっただろう、あのとき連れていかれたのは。

どうして私がこんな目に、思うのは一度ではない。


あの子との出会いは、ずっと昔。

表情豊かな子だと思った。

私のように空でなく、無であった。


ああ、素直に妬ましかった。

再開は、それが起こった後のこと。


そう、早朝から町にとある用事で赴いたとき。

焼けた屋敷を見た。


私と同じくらいの年の少女が、焼け切った門で立っていた。

それがあの時の娘だとは、とても思えなかった。

気付いたのは、もっと後の話。


薄汚れている、私からしたら質素な着物。

真っ黒な血がこびりついた、鮮やかな袖。

雨に濡れたのか、濡れて不気味に輝く髪。

裸足で出てきたその足には、泥の汚れが。

その身に纏う空気は喪失の2文字だった。


虚ろな瞳に、魅せられ、それでも嗤っているその姿は、誰よりも気高かった。


傷を感じ取った。おんなじ傷を持っていると。

傷の舐め合い。どれだけ不毛かなど知っていた。

それでも私は連れて帰った。孤独な娘に伴を付けてほしいと頼み込んで。


結局、父の扱う暗部に見習いとしてつけられてしまった。

でも、それでも彼女は実力を付けた。

驚くほどの若さで暗部の頂点に上り詰めた。

我儘を言って、今度こそ彼女を傍につけた。


わかっていた、それでも自制はできなかった。

甘美な禁忌に、私たちはのめりこんでいった。

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