1歳の年 現実と空想
梅宮神社、京都のある場所に位置する神社である。
何でも橘家の氏神らしい。
1年もの期間を費やしてようやくまともになった思考。
しかしまあ、いきなりぼんやり系赤ん坊からシャキッとした赤ん坊にシフトしたらどうなるか、そんなことがわからない私ではない。
未だに筋力の関係上立ち上がることもできなければ話すことさえできないが。
なんとか言葉は通じるはず。と思っていた。
さて、お経を聞いたことはあるだろうか?
「たーーーちーーーばーーーなーーのーーうーーじーーがーーみーー……」
今現在聞いている日本語を私の知っている文章で記述するとこんな感じだ。
宮司っぽい服を纏った宮司(仮)は、こんな感じで話している。
というか、聞いているのがもどかしい。すごく。もどかしい。
そう、この時代、言葉を話せる人はこんな感じであった。
話す速度がここまで遅いとは知らなかった。
メタなことを言えば、これ以降現代日本語意訳がつくのだが。
平安貴族の役割かなにかか。皆じっと儀式を眺めている。
世話役のような世話役(仮)に。背負われて私も見ている。
赤ん坊プレイに羞恥など感じるわけがない。
1年間はこんなかんじだから、もはや違和感を感じないといった方が正しいのか。
だって、この小さな体では、何もできないのだから。
できることといえば、諦観を持って成すがままに受け入れるだけだ。
何するものぞ羞恥心。心頭滅却すれば羞恥も……涼しくはないな。うん。
いやまあ、今は若干肌寒いのだが、外だし。
「退屈ではございませんか?若様」
うん、退屈ではないよ、寒いだけで。
「まあ、それはいけませんわ、では少し席を外して休みましょうか」
ああ、そうですね、
所変わって、籠の中。
移動に使われるこの籠であるが、中は意外と狭苦しい。
あちらこちらに挨拶をするわけでもない。本当に飾りのようなものだ。
初めて着るこの服であるが、意外に着心地が良い。
いつも着ている服、もとい布から想像するようなごわごわ感はない。
それでも前世の服と比べると着心地は悪いが。
それにしても、この世話役、大分若い?
「若様は最近しっかりしてきましたねぇ」
この時代に、私として目覚めてからしばらく。
なるべく以前のように振る舞っている。
しかし、赤ん坊という姿ゆえに四六時中人目にさらされるせいか。
あるいは私の演技力に限界が来ているのか。
気付かれるときには気付かれる。
無邪気、ではいられないのだ。
汚物とカビの臭いが漂う部屋。
腐臭につられたか、蠅のような虫が飛び交う空間。
そして、前世ではわずかにしか嗅いだことのない。
微かに、でも確かに香る。血の匂い。
察するには余りある期間。
本当に、平成の世は素晴らしいものだと思う。
だが、今いる場所は、時代は平安の世。
実際に体験してみるとわかる。
優雅さが吹き飛んでいく、魔境。
どす黒い陰謀が。
鳥帽子を被った人間の視線が。
謀略が、迫っている。
欲望に、塗れている。
敵意を、向けている。
悪魔より、人間は悪魔らしい。
私は理解できる。
そして、冷静に排除する思考を回し始める。この頭さえ、きっと。
世界が傾く感覚を、再び覚える。
結局、人の世はやはり、どこまで行っても人の世なのだ。
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