平安橘転生記

天宮詩音(虚ろな星屑)

1歳の年 天才は目覚める。


小さいころから、どこか世界が小さく見えていた。

正直に言えば、はっきり見えていたわけではない。


ぼんやりとした意識だったり、淡い視界の中。

あらゆる事象が理解でき、あらゆる法則を弄べた。


この事象だけは、結局解らずじまいだった。

でも、ようやくわかった。


1年という長い時間。

眠るたびに見ていた世界のこと。

これは、記憶だ。


平成、そんな平和に満ちた未来の太平の世。

その時代から、この記憶は来たようだ。


現実では見たことのない自動車、恐ろしく高い空を飛ぶ飛行機。

学んだこともないのに知識は頭の中に入っていて、最初は大分変な気持ちだった。

でも、今では完全に自分のものだ。


そして、人格が変わってしまったのだろう。

もともとあったかもしれない人格、そして、有り体に言えば前世の記憶。

この二つが混ざり合って、今の私の意識は構成されている。


そして歴史オタであった前世、その知識は曖昧ながらも自らの素性を暴き出した。

橘道貞たちばなのみちさだ

平安時代中期に、有名な藤原道長の側近として、朝廷に使えた人物。

和泉国、陸奥国の統治を歴任した中級貴族である。


現代に至って資料が少なく、また知名度も低い。

しかし、その妻、和泉式部の知名度は高いために記憶に残っていた。

そして、現在の私の意識はこの人物に入っている。


まあ、そんなこといったって今の体じゃ何もできはしないのだが。


何の因果か橘の御子、陰謀渦巻く京の都このばしょで、その名はあまりに重かった。

そのことに気付くまでに、要した時間は長くなかった。

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