第4問

 以下の問いに答えなさい。

『(1)4sinX + 3cos3X = 2の方程式を満たし、かつ第一象限に存在するXの値を一つ答えなさい。


 (2)sin(A + B)と等しい式を示すのは次のどれか、①~④の中から選びなさい。

    ①sinA + cosB ②sinA - cosB

  ③sinA cosB   ④sinA cosB + cosA sinB』



 篠崎紫緒里しのざきしおりの答え

『(1) X=π/6

 (2) ④』


 教師のコメント

『さすがは篠崎さんですね。他の教科もがんばりましょう』



 篠崎一郎しのざきいちろうの答え

『(1) Xはこの中に存在する!!』


 教師のコメント

『お願いですから、答えを求めてください』



 東城裕貴とうじょうゆうきの答え

『(2) Xの正体は(1)……おまえだぁ!!』


 教師のコメント

『せめて、カンニングする相手は選びましょう』



――――



 次の日、朝のHRが始まる前のわずかな時間。篠崎兄妹と共に、俺はFクラスに訪れた。

『東城と一郎だ! 八つ裂きにしろ!』

 ひゅー、熱烈なラブコールのお出迎えだ。

 嫉妬に狂ったFクラスがゾンビのように近寄ってくる。

「待て! おまえら! 俺は、おまえらに用事があって来た! だから先に一郎から殺せ!」

「貴様! 裏切りとは味な真似をし――(ぐきっ!)」

 ひとまず五月蠅いゴミを大人しくさせ、Fクラスに明け渡す。

 十字架に張り付けにされる一郎を後目に、俺は教壇に立った。

『なんだ? 東城が俺たちに何の用だ?』

『お礼参りに決まってんだろ』

『十字架の準備完了だよー』

 好き勝手に喋るFクラスを前に、深呼吸を一回。

「今日は、おまえらに試召戦争の宣戦布告をしにきた」

『『『なっ……!?』』』

 Fクラス全員が一斉に驚きの声を上げる。紫緒里も口をあんぐりと開けていた。

 それはそうだろう。試召戦争の宣戦布告に驚かないなんて――

『『『……ししょうせんそー?』』』

 あ、こいつら馬鹿だった。

『なんだっけ? やっべ。ど忘れだよ、ど忘れ』

『ばっか。あれだよ、ほら、昔起きた戦争だろ? ちょっと、俺もど忘れしてるけど知ってるぜ』

『知ってる知ってる。小学校で習ったわ』

 語るに落ちるとはこういうことを言うのだろうか。

「あのよ……。念のため言っておくが、召喚獣を戦わせるクラス対抗戦だぞ?」

『はぁ!? 知ってたし! 超知ってたし! 生まれる前から知ってたし! ちょっとボケみただけだしぃ!』

 こいつらの将来が怖いよ。

「ほぅ、面白い」

 烏合の衆の中、一人だけ試召戦争を理解する男がいた。

 ギラギラと熱のこもった視線を送ってくる男――篠崎一郎。

「やっと本気を出してきたか、裕貴。それでこそ、俺様が唯一認めた男だ」

 なかなか気分を盛り上げてくれる台詞を言ってくれる。磔じゃなければ、もっといい雰囲気なんだけど。

「俺たちの戦争をやろうぜ、一郎」

「昔の貴様らしい台詞を吐くようになったな! 俺様は嬉しいぞ!」

「別におまえを楽しませるためにやるわけじゃないからな」

「構わん! 俺様は俺様で楽しむだけだ!」

 互いに火花を散らす。

「開戦は明日。お昼休み開始のチャイムが合図だ」

 そう言い残し、俺はFクラスを立ち去ろうとする。

 我ながら格好良い演出だ。――十字架に邪魔されていなければ。

 Fクラスの出入り口は、いつの間にか巨大な十字架で封をされている。

「あの……Fクラスの皆さん、この十字架邪魔なんですけど? 退かしてくれませんかね……?」

 ああ、Aクラスの教室が恋しい。

『『『まだ宮野麗華の件での制裁は済んでない』』』

「くそがぁあああああ!」

『『『モテる男には死を!!』』』

 窓を開けている暇はない。

 今度は窓ガラスを割って、鉄人に説教された。



――――



「ということで試召戦争をやることになりました!」

 すかーん!

 すげぇ……最近の定規って黒板に刺さるものなのか。

「いやいや、みんなスマーイル。笑ってこ? ね?」

 愛しのAクラスに命辛々逃げてこられたものの、俺の味方はいないようだった。

「皆様、落ち着きなさいまし」

 宮野……おまえだけは俺の味方だったか。

「遺言の時間は差し上げましょう」

 全俺が泣いた。

「東城くん。レコーダーのセット完了だよ」

「このイケメンがぁ! ブサイクになぁれっ!」

 現実で魔法が使えたのなら、こいつの顔面をブサイクにしてやるのに……!

「さすがに急すぎませんこと?」

 宮野を始めとしてAクラスのほとんどが不満顔一色になっている。

「なにを言ってるんだ! だからこそだ!」

 緊迫感を相手に与えるために、怒気を混じらせて声を張り上げた。

 よしっ、みんなが俺に注目している。狙い通りだ。

「いいか、まじめに聞いてくれ」

 ここからは力を抜いて、静かに語る。

「俺たちは文月学園の生徒なんだ。試召戦争はいつ起こるか分からない。今回は俺からやったことだが、もしこれがBクラス相手に挑まれたらどうだ? 奴らに寝首を掻かれて卑怯だと罵るのか? そんなみっともない真似、俺にはできない。文月学園の生徒である以上、戦う義務は誰もが持ってるんだからな」

 事前に準備をしてきて正解だった。

 戦争をすると言われて喜ぶヤツなんていない。

 なにより試召戦争は、Aクラスにとって利点が一つも存在しなかった。

 戦争をしている間は授業が停滞する上、万が一にも敗北してしまった場合はAクラスの高品質な設備を奪われてしまう。こんなハイリスクノーリターンの戦を誰が喜ぶというのだろうか。

 だから、まず俺がすべきことは、試召戦争に価値を付与しなければならなかった。

『ぐぬぬ……バカのくせに……言い返せない……!』

 女子生徒の一人が悔しそうに呟く。

 良い流れだ。俺のペースにハマっていることに気づいていない。

「今回は予行練習と言ってもいい。相手はFクラスだ。あいつらの貧弱召喚獣なんて撫でるだけで即死するぞ」

 静かだったAクラスが賑わい出す。

 しかし内容としては不満が多く、戦争を拒絶する流れは変わらなかった。

 ここで切り札の登場だ。

「分かった……。一気団結できないようなら戦いを取り下げよう」

 俺の一言で、Aクラスに安堵の雰囲気が生まれる。

「イケメン……じゃなくて宗像。悪いが、Fクラスに宣戦布告の取り下げに行ってくれ」

「なぜ僕が?」

 まさかここで名指しをされるとは思っていなかったのか、キョトンとするイケメン。

「俺はあいつらに恨みを買っちまったからな。今更、俺が取り消しを宣言しても、あいつらは聞く耳を持たない。何のゆかりもないおまえの方が、話は通じるはずだ」

「ふむ……。釈然としないけど、まあ君のお願いなら行ってくるとしよう」

 予想通り、イケメンは俺の言うことを聞いてFクラスに向かって行った。

「クックックッ!」

 いかん。あまりにも上々すぎて、笑いが漏れてしまう。

「悪い顔になってますわよ。なにを企んでいますの?」

「いやぁ? 俺はなぁんにも悪いことなんて考えてないぞぉ?」

「気味が悪いですわね……」

 にやけ面を解しながら、イケメンの帰りを待つとしよう。

 それから5分後。


 Aクラスには、ボロボロになったイケメンが帰ってきた。


『『『あの底辺ども、ぶち殺してやる!(女子一同)』』』


 よしっ、クラスの女子が味方に付いた。

 Fクラス男子の性格は単純だ。女子に人気のあるイケメンを教室に放り込めば、言葉を交わさずとも襲いかかるに決まっている。

「これが狙いでしたのね……」

「ふふん、褒めても鼻の下しか伸びないぞ」

「スケベですの?」

 困惑する宮野を放っておいて、Aクラスの女子を中心に語りかける。

「さて、諸君、これでも君たちは試召戦争をしたくないか?」


『『『皆殺しだ!(女子一同の図太い声)』』』


「いい返事だ! ならば、各自、テストの点数をまとめて俺に出してくれ、戦略を立てるとしよう」

 黒板を叩き、クラスを鼓舞する。

「さあ、戦争が始まるぞ!」

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