第1問

 以下の問いに答えなさい。

『調理の為に火にかける鍋を製作する際、重量が軽いのでマグネシウムを材料に選んだのだが、調理を始めると問題が発生した。この時の問題点とマグネシウムの代わりに用いるべき金属合金の例を一つ挙げなさい』



 宮野麗華みやのれいかの答え

『マグネシウムの問題点……火にかけると酸素と激しく反応し、危険なことからマグネシウムは避けるべき。

合金例……ジュラルミン』


 教師のコメント

『この問題は昨年のものですが、合金という点で引っかけとなっています。宮野さん、正解です』



 篠崎紫緒里しのざきしおりの答え

『問題点……敵に狙われたとき、マグネシウムの鍋では盾代わりにならないから』


 教師のコメント

『君の想像力が豊かなのは認めます。不正解』



 東城裕貴とうじょうゆうきの答え

『合金例……18禁(←大好き)』


 教師のコメント

『先生も好きです』



――――



 ここで一つ、考えを改めなければならない。


 俺こと東城裕貴とうじょうゆうきは、周囲から馬鹿と言われているが、それは大きな間違いだ。

 俺が馬鹿ではない。周りに馬鹿が多いだけで一緒くたにされているだけだ。

 このすうこう(漢字をど忘れした)な俺の考えていることが理解できないから、俺のことを馬鹿と罵っているに違いない。

 俺こそが唯一無二の天才だと言っても過言ではなかった。

 天才だからこそ――今の状況を打破する策を見つけなければならない。

「考えろ……考えろ、東城裕貴!」

 頭をかきむしりながら、この窮地の脱出方法を探す。

 現在、密室と化した個室に俺は閉じ込められている。

 所持品はクリスマスプレゼントとケータイのみ。

 ケータイで助けを……いや、駄目だ。クリスマスパーティの乱闘に巻き込まれたせいで、画面が砕けて使い物にならない。

「あぁ、詰んだ……俺の人生……詰んだ」

 視線は下に向けられる。

 ピンクのタイルで敷き詰められた床。

 綺麗な洋式トイレ。

 見たこともない『乙姫』という機能。


「よりにもよって何で女子トイレに入っちまったんだ! 俺のバカぁ!」


 すべての原因は、学校で行われるクリスマスパーティから始まる。

 モテない男子一同がこぞって参加したものの、クリスマスパーティの中身を開けてみれば、モテない男子生徒が大暴れする世紀末イベントだった。

 おかしいよ、学校が設けたクリスマスパーティなんだよ? 普通に考えれば、女子生徒とお近づきになれるテンション上がりまくりのイベントなんだよ?

 なのに現実のクリスマスパーティは、モテる男子生徒を血祭りに上げる、血なまぐさい大乱闘だった。

 会場の雰囲気が、桃色じゃなくて血の色に染まってたってのがミソ。泣きたい。

 あまりの凄惨な光景に、俺は料理を必死に胃袋に詰め込んで逃げた――それが悪かった。

 腹を下して、すぐに体育館のトイレに駆け込んだのだが……俺よ、なぜ自分の性別に気づかなかった。

「どうすればいいんだ……」

 女子トイレから脱出する方法は――駄目だ。どう考えても、バッドエンディングへの直行便ばかりだ。

 ええい、このちっぽけな頭が有効に働いたことなんてない。頭突き以外に使った覚えもない。

 ここは一か八か、誰もいないことを願って出るしかなかった。

 品行方正な日頃の行いを鑑みてくれれば、神様がきっと助けてくれる!

 いざ、脱出!


 ガチャッ! ←女子生徒二名と遭遇


 神様は、俺の行いをよく見てくれてるみたい。ちくしょうめ。

 よりにもよって相手が最悪だ。俺が知っている中でも、殺人的戦闘力を持つ可愛い女子二人が雁首そろえている。社会的にも肉体的にも、俺は神様の元に逝けるだろう。

「ち、違うんだ、これは……そう!! ドッキリなんだ!!」

 急拵えのプラカードで対応してみる。

「「…………」」

 ああ、駄目だ。殺される。二人とも、人殺しの目をしていらっしゃる。

「命だけはどうかごぶぁあ!!」



 俺の記憶はここから、消えている。


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