第11話 バカボンボンだって
現場の鹿住ちゃんです!
「自分のミスを僕に押し付けようとしたくせに、よくもまあこんなところに顔を出せたねぇ?」
あれから2日後、来兎と裕斗くんと共に冒険者ギルドの近くまで来るといけ好かない金髪の男が待っていました!
その男は決して筋肉が付いているとはいえない体でしたが、魔力による身体強化、それにレベル制であるこの世界では外見の印象はあまり当てにならないのです!
裕斗くんみたいに魔法が超すごい人もいるでしょうしね!
「誰だっけ君」
こちらを見て第一声があれでしたので、こちらも煽りで返します!
精一杯の腹立つ顔です!
「な……無礼な! 僕はカレジデート・アレンビーだぞ! 忘れたとは言わせない、君のせいで死にかけたんだ!」
あくまで夏美のせいにする姿勢を崩さないスタンス、バカボンボンにふさわしいそのスタイルは嫌いじゃない。
カレジデート──バカボンボンは沸点が低いのか、それともこれは演技なのか。演技だとすれば無能を装う狡猾さを持っているようだが、見た感じそういうのは見えない。
自尊心の塊に見えるが……まあ夏美を口説いて断られ、激昂して毒を刺したとかその辺が無難だろう。やっべ俺予知能力あるんじゃね?
「そうですか。それじゃあ私たちはこれで」
「ふざけてるのか! この僕をあんな目に合わせておいて、謝罪の一つもなく済ませられるわけがないだろう!」
「と、申しますと?」
「家の牢屋に繋がなければ気が済まない!」
「と、申しますと?」
コイツあんなクソあぶねえ毒盛っといてまだ身体目当てだったりすんの?
ネクロフィリアかなにか?
「この……ふざけるのもいい加減にしろ! たかが冒険者風情に僕に逆らう資格なんてないんだ! だから大人しくついてこればいいんだよ!」
「そうなんだ。じゃあ私、冒険者ギルド行くね」
掴みかかってきたバカボンボンの手を掴みつつ、ニコヤカに告げる。
さて、来兎に裕斗くんの抑えは頼んでいたが、どうやら予想以上のヒステリックさに唖然としているらしい。
俺も正直驚いてる。もうちょこっと粘着質な顔だけイケメンとかかと思ってたけど、まさかこんな俺様(笑)キャラだったとは……
「おい、お前たち──」
「ごめーん! 遅くなっちゃった。待った?」
「……は?」
バカボンボンが言いかけたと同時にやってきたのは夏美だった。
夏美はこちらまで歩きながら、俺を見て言う。
「あれ!? 私が2人いる!?」
「は? え????」
唖然としているバカボンボンはさておき、夏美が来たので変身を解こう。
「フォームチェーンジ! 鹿住チェーンジ!」
紅き光が立ち上り、目も眩むような閃光が周囲を包み込む!
影は形を変えて小さくなり、光が晴れた時に現れたのは────
「美しい……」
黒髪の超絶美少女、鹿住ちゃんでーす☆
「てい」
軽めの攻撃を加えてバカボンボンを気絶させる。
すると、ロリに美しいとか言い出した来兎にドン引きしている夏美が口を開いた。
「話には聞いてたけど、それどうなってるの……?」
「来兎の作った魔道具で幻影をね。ともかくこれで『アレンビー家』が手を出してくることはそうそうないだろ」
常識的に考えて同じ人が2人いるように見えるやつとかありえないよねー!
なんてったって夏美はアレンビー家に居たもんねー!
あそこの嫡男幻覚見えるとか精神病なんじゃなーい?
えー、アレンビー家って精神病の子を産むのー? 血が穢れてるんじゃなーい?
やだー! 婚姻結ぶのやめとこー!
現実にはもっとお上品だろうが、この流れは容易に想像できる。いつの時代も貴族社会もめんどくさいのだ。
よって、『アレンビー家』としては弱みを握られたことになる。
なぜなら、俺たちはちょっと噂話をするだけでいい。こんなゴシップ、庶民に流せば爆発的に広がる。誰もが噂するのであれば、それは『事実』とされてもおかしくはないのだ。きっと善意の第三者が『自分を見た』等と言ってくれることだろう。
だからこそ、アレンビー家は俺たちに頼み込むしかない。いやほんともうしわけなんだけどね。黙ってくれるようにお金を貰うのは心苦しいんだけど、やっぱり誠意ってもんがね?
「おいまたゲス顔してんぞ」
「おっと失礼」
ともかく、アレンビー家としては俺たちを殺すことができない。「あそこの嫡男が幻覚見ててさー」と言っていた冒険者が無残な死体になっていれば「あれれ~おかしいぞ~」とあること間違いなしだ。変な陰謀論とか増えるかもね。
だから、もしも何か追及されたときは当事者である俺たちに『そんな事実はない』と証言してもらうしかない。
つーかさっき間者がいたからね! ちょっとした魔法で自己紹介してもらったから、「アイツ頭おかしくね?」くらいは広まるよ!
「ま、今日か明日には動くだろ。それより行こうぜ、今日は念願の10階層だ」
昨日はダンジョン攻略を9階層で止め、半日ほど裕斗くんの稽古に費やした。
昨日購入した火球の魔道具──火属性第十階級魔法が封じ込められたそれを緊急用に持ち、準備は完了。相当火が苦手らしく、当てたら必ずのけ反るらしい。
朝のこれは単純にバカボンボンが来るのが察知できたからだ。あと夏美もアレンビー家そのものには少なくとも復讐しないらしいので、その宣言だけでも──俗に言う脅しである──するためだった。
要は無駄な時間である。私兵の一つも連れてダンジョン内で襲い掛かってきてくれれば面白かっただけど。
「え、あ、うん。それはどうするの?」
裕斗くんが道端に転がったバカボンボンを指差す。
「なぜか倒れてるからここに寝かしておいてあげよう」
道端で眠るなんてやーね。
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