第10話 初心者向けだって

「この分だと9階層くらいまで敵なしって感じだな」

「そうだねえ、10倍くらいレベル差あるみたいだし、ボス前までは1人でも行けちゃいそう」

「ボス?」

「階層ボス。10階層ごとにいて夏美が嵌められたのは3体目のボスだな」

「へー」


 適正レベル的には第10階層までで1~10、第20階層から11~20と言う感じらしい。わかりやすくて何より。


「そういえば、みんな一々第1階層から入っていくのか?」

「いや、10階層ごとにギルドから転移できるぞ。……できたよな?」

「40階層まではそうだね。50階層からは1階層ごとに転移できるようになってたよ」


  50レベルオーバーは流石に連戦で下まで行けないという配慮か? 正直まともな人間なら30でも十分アレなんじゃないですかね……?

 赤い月の神が考えることはやっぱり理解できねえや。したくもないけど。


「まあ、今日は5階層で止めておこっか。10階層のボスは確か火が弱点の大きな蛇だったはずだし、仮にもボスだから装備は整えないとね」

「慢心すると死ぬしな。石橋を叩いて渡るのがいいよ」


 ところで、保険的に夏美を雇ったけど裕斗くんが強すぎて必要ない今日この頃。

 まあ、いきなり高レベル戦でも息が合わないだろうし、何より夏美を救えたとすればいいんだけどね。


「ところで10階層まで魔物ってこんな感じ?」


 会話中にも出てきていたチリーウルフを危なげなく屠った裕斗くんが夏美に尋ねた。



「うん、レベルが上がるだけだったよ」


 超つまらないことが確定した瞬間である。

 ……ま、まあ。人の一生は長いしな。行き急いでもしょうがない。


「いやもう……イベント早めよ」


 せっかくこの世界は命が軽いんだからもうちょっと面白くしよう?

 具体的にはバカボンボン召喚。


「悪い顔かわいいけどカズくん善玉ライフどこ行ったの」

「悪玉を討伐するのは善玉の仕事なので」


 社会的にはバカボンボンとAランクなら後者の方が重要だろう。

 都市粉砕できる化物と好き好んで敵対するおバカさんはそうはいない。

 世界を滅ぼせる勇者レベルならともかく、都市壊滅程度なら討伐より飼うほうがメリットあるし。

『アイツがバカだっただけだ』『俺なら制御できる』そんな根拠のない自身をもって油断するのが権力を握った豚共だ。


 つまりどういうことかって?

 夏美復活を大々的に流せば、色々釣れるってことだ。

 周辺地域が批判するか、慌てて夏美を消しに来るかは知らないが……どう転んでも面白くなることは確かである。理想的には両方。


「ふふふ」

「ふはははは」

『はーっはっはっは!』

「鹿住さんが壊れたー!?」


 来兎と三段笑いしてたら裕斗くんが振り返った。



 さて、茶番交えながら5階到達。

 時刻は大体昼。優秀な腹時計を持った夏美が口を開いた。


「じゃ、戻ろっか……なんか失礼なこと考えてない?」

「気のせいです」

「まあいいけど。……これは脱出用の転移結晶で、ギルドの中に繋がってるんだ」


 夏美が取り出したそれは手のひらサイズの緑の水晶だ。

 それを彼女がクッと握りしめると砕け散り、眩い光が迸った。

 ……待って? 軽く握って水晶破壊するのおかしくない? 

 光が収まるとそこは体育館ほどの広さをした空間だった。


「……転移結晶すごいな。これがあれば流通とか思いのままなんじゃね?」

「運ぶ距離と重量で値段も変わるし、最低でも物心ついた人間くらいの知性がないといけないらしいから馬も難しいらしいよ。よっぽどじゃない限り陸路で言った方が安く済むんじゃないかな」


 ふむん? それにしたって冒険者パーティ用ならば鎧を着た成人男性を五人くらいは運べるようになっているだろうし、100kgくらいは……ああいや。そもそもこんな危険物管理してんのは国か。

 第一階層で縦5メートルくらい。ドラゴン級のがいるならば相応の大きさに膨れ上がるとして、最奥も最奥からで使えるとすると相当の距離転移ができる。

 転移先が設定できるのならテロし放題だ。転移防止の結界があるかもしれないが、その手前をポイントにされれば無意味だ。大群が一瞬で至近距離まで来るというだけで士気は下げられる。

 そんな危ないもの禁止するにきまってる。よほどの事情──襲撃を受けた貴族、王族の緊急避難用とかにしか使えないだろう。


 剥ぎ取った皮をギルドの買い取りカウンターに出し、料金を全員で等分配。

 基本仕事してたのは裕斗くんだから心苦しいけど、報酬は等分配が一番丸いからな。十数体もいれば宿代程度にはなる。

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