第8話 重症患者だって
「やっぱり僕、1人で……」
「大丈夫大丈夫。コネは使うもんだぜ」
やってきた奴隷商店は、ドレスコードでもあるのかと思うほどの高級感あふれる建物だった。
店の前に豪奢な馬車が止まっているのを見るに、貴族御用達の場に見えるんだけど……本当にコネとかあるのか?
「あーいや! 僕汚れてるから! 流石にこれをマントに隠して入るのはまずいんじゃないかなー!」
「大丈夫、この店は入口に『浄化』魔法の魔道具ついてるから」
裕斗くんどんだけ嫌なんだよ。
観念したのかとぼとぼ歩いて入っていく裕斗くんに苦笑しつつ、俺も店の中へ入る。
店の中は……そう、例えるなら高級娼館といったところか。向こうのは俺行ったことないけど。姉貴に操立ててますんでね!
ドラマでよく見るところと言えばキャバクラだろうか。ソファとテーブルが置かれ、そこに仕立ての良い服を着た女性たちが座っている。
服の値段だけでもそこそこすると思うのだが、来兎はコネでどこまで値切る気なのだろうか?
「おや、ライトさん。ついに奴隷を?」
「どうも、ミレーさん。いや、友人が冒険者をやるのでね、誰かしら居ないかなと」
丁度話が終わったのか、貴族の使用人らしき男とソファに座っていた中年がこちらへやってきた。
使用人は主人の希望する奴隷がいなかったのか、肩を落としながら店を出ていった。
「冒険者ですか……そちらの?」
「ええ。金に糸目はつけないので、優秀な人はいませんかね?」
「!?」
裕斗くんが超驚いてた。
金を量産できるどころか食事も睡眠も必要ない来兎だからな。裕斗くんに適当な奴隷を付けるはずがない。そんなことしたら結局心配になるんだアイツ。
「ふむ……かつてAランクの冒険者ならばいますが……いえ、最高はCランクですね」
「ん? そのAランク冒険者は問題があるのか?」
「ええ。アレンビー様の依頼でBランクの10人と共にダンジョン30階層のボスを狩りに行ったらしいのですが……」
中年はそこで言葉を切ってキョロキョロと辺りを見回し、声を潜めて続けた。
「アレンビー様のご子息に背後から攻撃されたそうなのです。彼女は命からがら生還しましたが、しかしアレンビー様は聞く耳を持たず……」
「逆に討伐失敗の烙印を押されたってか?」
中年は頷いた。
「毒で顔や皮膚は焼けただれ、左腕と左足は消失し、残りの右腕も教会の僧侶が匙を投げるほどなのです。以前助けられた恩を返すために私が買い取りましたが、かつての快活だった見る影もなく……」
アレンビーガチクズじゃないですかー。コモドドラゴンのダメージじゃないぞそれ。
裕斗くんを見ると、怒りで顔を真っ赤にしていた。ここにアレンビーでもこれば斬りかかりかねないほどの激情を感じる。
「落ち着けって裕斗……じゃあ、そいつ俺が買ってもいいか?」
「は……? いえ、構いませんが……冒険者としての働きどころか、要介護者のレベルですよ……?」
「大丈夫大丈夫。カズちゃーん」
「はいな」
来兎が買わなきゃそろそろ自殺しかねないぞその人。
無理でも押し通って治療に行ってたくらいだ。善玉鹿住ちゃんもまた良い人なのだ。
「これもテンプレっつーのかね」
「神のご加護じゃねえかな」
困惑する中年に案内されたのは店の最奥だった。スタッフルームを超えた先、店長の信用がなければ案内されない場所だろう。
「じゃ、カズちゃんよっろしくー」
「はーい、鹿住ちゃんにおっまかせー☆」
来兎が中年に「アイツは回復系統の古代魔法の使い手だから」とか適当な説明をするのを聞きつつ、扉を開けて中へ入った。
「……ふーむ、こいつは」
部屋の中央のベッドに寝ていた女性は、中年の説明に違わず片腕片足がない。
全身にまかれた包帯を少し外してみると確かに爛れている。……いや、これは爛れているどころではない。
教会の僧侶程度じゃ解毒できないレベルの高ランクの毒……マレドヒュドラの毒だろうか? ジワリジワリと肉体を浸食している。もう数日もすれば全身が崩れて死に至るだろうというレベルだ。
……というか、この毒で生きてるとかこの人は本当に人間なのか? 普通回復薬とかつぎ込んでようやく1日生きてるかってはずだけど、Aランク冒険者ってこんな化け物だったっけ?
「まあいい。
指の先を噛み切って、流れる血を女性の口へ。
これは一時的な身体能力の増加と蘇生レベルの治癒を可能とする。いわゆるエリクサーという物だな
「っ…………」
女性が呻き声を上げると、全身から煙が立ち上る。
BDではこの煙は消えます。
やがて煙が出なくなれば、そこにいたのは五体満足の美しい女性だ。
歳は二十代後半だろう。長い黒髪や顔立ちは……なんとも日本人の印象を抱かせる。転移者か?
「ここまでやって敵とか勘弁してくれよ……? 寝覚めが悪いぞ」
せめて『赤い月の神』が呼んだのでなければまだやりようはある。
今朝名乗り上げて喧嘩売っちゃったからなー。裕斗くんの近くにいたからどうせ見てただろうし名乗り上げてやったけど、うーん。あのクソ洗脳はお手の物だからなあ。
まあこの女性は不明だな。俺が来る前からここにいたみたいだし、昨日までに来ていたものは保留で今日以降やってきた転移OR転生者は敵判定ってことで。
「う…………」
あ、起きた。
「ふあ……………………!?」
起き上がってあくびをしながら伸びをして、眠たげな眼を擦ってから沈黙。
そして声にならない驚愕の声を出し、布団をはねのけ包帯を千切るように解く。
「え、あれ?? うそ、なんともない。それどころか身体が軽い……」
ペタペタと顔を触り、腕を回す。
「……もしかして、タイムリープした!?」
その発想はおかしい。
「どうも、ご気分はいかがですか?」
「へ? あ、だれ、あなた?」
「上仲鹿住と申します。先日こちらにやってきました」
さて、どうとでも取れるように言ってみたが、果たして?
「あ、私は神崎夏美です……もしかして日本の?」
「ええ。ダンジョン内で目覚めまして」
「そうなんですかー。私も10年前にダンジョンの中で目が覚めたんですよ」
神崎……神裂?
「……お兄さんっていますか?」
「え、うん。いるけど……」
「名前は?」
「英樹だけど……知ってるの?」
「いえべつに」
ちょっぴり操作して今の話は忘れてもらおう。
それよりも、『神崎英樹』か。同姓同名じゃなければ俺たちを殺した勇者と一緒にいた『勇者』だな。
あの後どうなったかは知らないが、『勇者』に与えられた神の力を手なずけていたはずだ。あのまま成長したならあるいは、善なる神の末席に名を連ねていたかもしれない。
ちなみに赤い月の神はああいうの嫌いだ。性格もさることながら、そもそも神たちは神を裂くとも聞こえる『神崎』みたいな苗字が嫌いらしいし。
全ヶ国語話せると嫌いな言葉多くて大変っすね(煽り)。
「時に、神崎さん」
「夏美でいいよー鹿住ちゃん」
さて、こんな状況であったのなら1つ聞いておくべきことがある。
なあ──
「……復讐とか興味あります?」
得も言われぬ快楽、楽しんでみないか? 神崎夏美。
「…………え?」
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