第7話 初依頼だって
「ギルドには登録したんだったよな? じゃあ待ってな」
朝食後、裕斗くんも加えてギルドに移動すると、来兎がそういって1つのカウンター目指して歩き出した。
「なんかキリッとしてて格好いいね」
「中身があれじゃなければね」
来兎が手続きをしている間、依頼書の貼られたボードに目を向ける。
『ケアル草の採取』、『ゴブリン討伐』、『ソードウルフの討伐』などなど主に討伐系の依頼が見られた。
ランクは低め。一番難しいソードウルフの討伐でランクC推奨クエストらしい。
「ん?」
1つだけやけに難易度の高いものがあった。
『オランディダンジョン30階層ボスの討伐』……難易度B(Bランクパーティ推奨)
Bとなると人外に片足突っ込んだレベルだろうか。それらがパーティで集う必要のあるクエストとなると、よほどの化け物が出てくるのだろう。コモドドラゴンとか?
機会があれば行ってみたいところだな。
「ほいほい、ゴブリン討伐依頼だ」
来兎が持ってきた依頼書はEランクパーティ推奨の依頼。
曰く、○ランクパーティ推奨の依頼は○ランク推奨よりも難易度が高く、ソロで受けるなら+2ランクいるのだとか。
今回の場合だとEランクパーティ推奨だから、Cランク冒険者ならソロで討伐可能な物なのだろう。
つまりは、
「この依頼は人数……ゴブ数? が多いからな。大体30~50匹の巣を壊滅させるのが仕事だ」
「……ダンジョン外? 魔物はダンジョン内にいるんじゃ?」
「ゴブリンとか繁殖力の高い連中はダンジョンの外に巣を作るのがよくある。住んでる階層も浅いからな、ふらっと出ていきやすい低級魔物はダンジョン外にもいるぜ」
それに低級魔物は作るときのマナ消費が少なすぎるし、と付け加えて来兎は歩き出した。
「さあやってまいりました地獄の宴の時間です。解説は私、プリティーな美少女鹿住ちゃんがお送りします」
あっと裕斗くんの前に巡回兵らしきゴブリンが現れました!
手に持つのはダンジョン同様ボロボロの剣と新登場のボロい盾!
対する裕斗くんは不滅の剣です! 事実上最強の盾にもなり得るこの武器をいかに生かせるのかが勝負の分かれ目となるでしょう!
ゴブリンが奇声を上げながら腕を振り上げ切りかかります。
対する裕斗くんは……よけた! サイドステップで大きく躱し、身体をひねるように力を貯めて──振り切ったー! 見事首に命中ホームラン!
「楽しい?」
「楽しい」
裕斗くんが1匹葬ったところで実況終了。
ゴブリンの巣に来たはいいけど、今回は裕斗くんの教育の時間なので範囲魔法で潰すのはもったいない。しかし一気に来られても困る。
そういうわけで来兎の魔法により壁を作り、ゴブリンたちが徒党を組めない状況にしてしまったのであった。
「その剣はゴブリンのなまくらと格が違うからそんなに力はいらないぜ」
鮮やかな切り口と恐らくは予想以上に抵抗が少なかったことに驚いていた裕斗くんに来兎が声をかける。
「うん。すごいね、これ」
払うまでもなく返り血なんてつかない鮮やかな刀身。流石に切れ味が劇的に上がるわけではないが、そこはそれ。魔神が作った剣なのだから、そこらのなまくらとは格が違う。
B~Aランクの中間位の切れ味は持つだろう。更に『不滅』属性だから刃こぼれもしないし、研ぎの必要もないという便利過ぎる剣だ。
「っと、1匹貰うぜ」
裕斗くんを見ていたら身体が疼いてきたので、ちょうどやってきたゴブリンに腕試しさせて貰おう。
裕斗くんと位置を交代し、倒されたゴブリンの剣を拾い上げる。
いつかのやり直しの如く、壁の角からやってくるのは明らかに人間ではない異形の生物──醜悪な顔を持つ緑の小人、ゴブリン。
危うく鹿住ちゃんを殺しかけた同族の罪、ここで裁かせてもらおう。
こちらを目視して奇声を上げるゴブリンの目には『喜悦』が見て取れる。
頭の中まで性欲に支配された低級ゴブリンには『女』という生物は凌辱の対象にしか見えていないのだ。
加減しているのか、掲げた剣をやけに遅く振り下ろすゴブリンに必殺のソードキック(蹴り)
よろけて体勢の崩れた身体へ足払い。
転倒したところに追撃を加えようとして、思いとどまる。練習相手をすぐに殺す必要はなかった。
3歩下がり、ゴブリンが立ち上がるのを待つ。
逆上したのか、立ち上がったゴブリンはまたも上段からの振り下ろしを選択。
本気になったそれは先ほどとは比べ物にならないくらい早いが、悲しいかなそれでも遅い。今度は1歩横にずれることで避け、足で剣を蹴り飛ばす。
そのままジャンプして右足を首元へ叩き込み、肩を足場に今度は左足を叩き込む。崩れる身体に合わせて右足を今度は側頭部に入れて蹴り上げ、コンボが続かなくなったので着地。横に倒れるゴブリンの胸になまくらを突き刺して終わりだ。
「……弱すぎ」
「カズちゃん小さくなってもエグさは同じなのな。あれ2コンボ目で死んでたぞ」
「迷宮なしのプリティーガールだからな。江戸川カズミと呼んでくれ」
「
『HAHAHAHAHA』
3人で何やってんだ俺ら。
そこから30匹ほど葬り、ようやくゴブリンは打ち止めらしい。
ゴブリンの何ら変わらぬ弱さにやる気が7割くらい落ちていたが、ようやくクエスト終了だ。
ありがちな囚われた女性とかも今回はいない。早期の発見だったらしく、被害が出る前に潰せたのは僥倖だったと言える。
そして裕斗くんはCランク相当の剣術を獲得するに至った。本人曰く『剣術(C)』が増えたそうで。たかだかゴブリン30匹で一般人の5年相当とかチートが過ぎるぞこの『勇者』
報酬は銀貨10枚。雑魚扱いしていたが、一般人では1対1じゃあ倒せない上に数も多い。というかそもそも壁を作らなければ範囲魔法で一気に潰すとかだし、それが可能な者は少ない。被害者がいれば報酬も倍にはなっていただろうが、そこまで金に困ってもいないし。
とりあえず偽造硬貨くんのところには秘密裏に返却。裕斗くんの同意の下、取り分から1枚ずつ(来兎4枚俺と裕斗くんで6枚)で返却して残りの4枚を半分こ。
遅めの昼食を食べて、次は奴隷商だ。
ドヤ顔エルフとかいませんかね?
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