第5話 かつての仲間に再開したんですって
「…………………………」
「…………………………」
「…………コレ?」
「……誠に遺憾ながら、コレ」
【急募】20年ぶりくらいに再会する親友にプロポーズされた場合に取る行動。
「(無言の腹蹴り)」
「パゴアッ!」
とりあえず足が出た。あとなんか涙が出てきた。
宿屋に着いた俺たちは、ちょうど上の階から降りてきたらしい男と遭遇した。
非常に馴染みのある顔で、TS転生したとはいえ面影のある俺に気づくかなーと思いきや、まさかの初手プロポーズだった。
重ねて言うが、鹿住ちゃんはロリである。つるぺた幼女である。
外見年齢20歳くらいの男がプロポーズするには年齢差が開きすぎである。
端的に言って気持ち悪いよね。こいつよく捕まらなかったね。
「痛っー……この容赦のないツッコミ……まさか舞歌か!?」
「姉貴じゃないです。触らないでください」
「姉貴……姉がいるってことは……お前和馬ァ!? そろそろ来るとは聞いてたけどお前なにしてんの!?」
ガバリと立ち上がって掴み掛ってくる手を払えば、今度は理不尽なキレ方をされた。
目の前の男──雪崎来兎は、背の高い優男だ。髪、瞳の色は共に黒。そして真っ黒いスーツのような服を着ている……全身くっろ。まっくろくろすけかよ。
「転生ですぅー。今回は俺のせいじゃないですぅー」
「……あー、そういえばお前は向こうに行ってたんだっけ。で、そっちの子が『勇者』くん?」
納得した顔の来兎は、俺の後ろに立つ裕斗くんを指差して言った。
「ああ。まあそっちはどうでもいいから、とにかくお前の知ってる情報をよこせ」
「…………幼女に命令されるのもいいかもしれない」
「死ね」
こいつ刑務所に叩き込んだほうがいいんじゃない?
かわいい鹿住ちゃんの口からそんなこと言うわけにはいかない。と内心のそんな感想を押し殺して宿の受付へ向かい、ドン引きしている17歳くらいの受付嬢に言って部屋を取って貰う。1部屋なんとお値段は銀貨1枚! え~安ーい!
尚、裕斗くんが「鹿住さんは女の子なんだから男の僕と一緒の部屋は……」とか言っていたので来兎の部屋に乗り込むことに。中身こんなのとはいえ女子と一緒の部屋じゃ気は休まらないわな、せやな。
「ゴホン。冗談はこのくらいにして」
(冗談?)
(冗談……?)
「とりあえず、俺はアンネから今日和馬が来ることを聞いていた。そっちの……」
「あ、高林裕斗です」
「あ、雪崎来兎です……裕斗は知らなかったが、まあこのタイミングなら召喚時のミスだろう」
そうして、夕飯がてら食堂で今後の会議に。
「まあ事故については気になるなら裕斗が調べればいいとして、冒険者パーティだっけ?」
「そうですね、私と裕斗くんだけじゃ不安があるので、かっこいい(笑)イケメンの(笑)来兎さんに一緒にやってほしいなって」
ロリっていうか仲間が絡まなければ完璧超人みたいな来兎は、3か月前に来たらしいここでも大人気らしい。
その証拠に、そこそこの人数がいるこの食堂でも聞き耳を立ててる女性が何人かいた。おかげさまで鹿住ちゃんモードになる羽目に。
「後でお兄ちゃんと……いや、うんわかった。明日にでもゴブリン討伐辺りで戦闘経験積むか?」
「ゴブリンならダンジョン内で戦ったよ?」
「あ、そう? でも転移直後ならまともな武器とかないだろ。裕斗にはまともな戦闘経験は重要だと思うぜ。力はあって困ることないし」
異世界より召喚された『勇者』には成長補正がある。確定で受けられる基本属性全ての魔法適正に加え、剣術、槍術、魔法などなど、どれかに特化して世界最強クラスまで行ける補正がかかる。そのほかであれ、冒険者ランクで言えばCランク相当(一般人が大体5~10年ほど地道な訓練を続けたレベル)までは補正がかかる。そのレベルでも天才に変わりはないのだから成長チートといっても過言ではないだろう。
とまあそんなわけで、『勇者』の育成方針としてはとにかく武器を使わせて魔法を使わせるのが良い。
まして裕斗くんは『勇者』たちの中でも特殊なタイプ。素の能力も俺たちに届きえる可能性がある。実に面白……イカンイカン。持病のバトル脳が。
裕斗くん、トモダチ。手、出さない。よし。
「それじゃあ、裕斗くんの武器が必要ですね。まずは何を?」
「そうだなあ、やっぱり剣か? ちょうどあまりの剣が一本あるしな」
「あれ、鹿住さんはいらないの?」
「いやあ、コイツはイカレた武器持ってるしなあ。俺のなんかいらないだろ?」
「そうですね。わざわざ作って貰うほどではないですし」
俺たちの言葉に首を傾げながらも、裕斗くんは「じゃあよろしくお願いします」と来兎へ言った。
後で聞いたところ『不滅』属性のついた剣を渡すとのことでして、既にそれがチート武器ではないかと思いました。
「後は……ああ、奴隷商への伝手はあるから悪くない奴紹介してもらえると思うぞ」
「え、奴隷?」
「ああ。出会った初日にいうとあれだが、俺も和……カズちゃんもちょっと仕事があってな。一生一緒にいることはできないし、奴隷なら諸々の面で安心できるし……ああいや、こっちの奴隷はそんなひどいもんじゃないぞ。あのな──」
この世界の奴隷は人としての扱いを受けないとか一生そのままというわけではない。主人は奴隷の衣食住を保障する義務があるし、給料も出さなければならない。
合意の上で無ければ性行為を及ぶことも許されていないし、その他にもあまりにひどい扱いをすれば契約の聖霊に処される。ついでに牢屋に叩き込まれる。
罪によるが、基本生殖器の粉砕だかのグロイことが刑なのでそら大切に扱うよねって。
そうはいっても契約の範疇にあることなら逆らえないので、性奴隷として購入するなら余程じゃない限り契約の聖霊も出てこないけど。
要は会社と従業員の関係だ。雇用期間中は絶対に裏切らない社員を雇うと思えばいい。
信用が金で買えるようなものだから確か商会でも重宝されていたし、冒険者ならば基本的に取り分は主人の物だから将来的にはチームを組むより安上がりと言う面もある。
「──とまあ、こんなわけだ」
長々と説明した来兎が、テーブルに置かれた水を飲みほして言った。
素早く水を入れに来たウェイトレスが来た。目がハートだった。
「なるほど……うん、僕もやらなきゃいけないことがあるみたいだし、その方がいいかも。あ、でもお金は──」
「金はそのうち俺に払えばいいさ。代金を返済しきったら別れるってことで」
その提案に裕斗くんが渋りそうだったので、俺も口を開く。
「そうですね。お金を稼ぐにしろ強くならなければいけませんし、来兎さんは優しい人ですから、弱いまま放置すると心配で死んじゃいますもんね」
「俺そんなに心弱くねえけど!?」
どのみち剣を貰うのも奴隷を貰うのも変わらない。一般的な倫理観の持ち主からすれば眉を顰めるかもしれないが、どちらも武器であることに変わりはないのだから。
むしろこちら産の奴隷よりも来兎から貰う剣の方が高いだろうし。奴隷にしたってそれこそ強いやつは冒険者で生きていけるのだから、戦闘用の奴隷とはいえとびぬけて強いはずがない=安いということだ。元高ランクがいるなら、膝に矢を受けたような人が指導者として買われるのが主だったはずだ。
「よしじゃあもういいか? 冷めちまうから夕餉にしようぜ」
言って、来兎がテーブルの上の料理を指す。
それは黒い柔らかなパンであったり、何かの魚のトマトソース煮込みであったりと、おおよそファンタジー感なくなりそうな感じだった。
その理由は『勇者』が広めたりするからなのだけど、まあ文句を言うことではない。
「あ、そうそう。カズちゃんよ、あの時から千年経ってるらしいぜ」
噴いた。
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