第4話 運命の相手に出会ったんだって

 その男がこの世界で目覚めたのは三年前のことであった。

 オランディのある『 クリエス王国』とは遠く離れた『ヤタローブ王国』。そこで行われた『勇者召喚の儀』によって召喚された四人の少年少女たちに紛れ込んで召喚されてしまった。

 正しき対象であった少年少女たちとは違い、男は『勇者』としての能力なく召喚されてしまった。本来『勇者』とは特出したステータスの持ち主でなければならないというのに、男は平均以下のステータスであったのだ。


 ヤタローブ王国としても、そんな男を飼う余裕などない。国益になる保証のない男など邪魔なだけだ。

 そうして、1枚の金貨と共に男は王都を追い出された。


 命からがら男は『ウナト』という街にたどり着く。

 その街で彼は、冒険者として生きることを選択した。それは、今や地位も身分も何もかもがない男が生きるために最も手っ取り早いことだったからだった。

 冒険者という職業は、まさしくハイリスクハイリターン。低級での薬草採集はともかくとして、魔物との戦闘には死が付き物であり、それだけ報酬も高い。

 男は知識チートというのも考えたが、すでにポンプなどといったものが存在する世界で何をすればいいのかとんと見当がつかぬ。男には水爆や原爆などしか思い浮かばなかった。


 日本と比べてあらゆる面で違う世界だ。奴隷制が存在し、人の命は軽い。流通はアイテムボックスを持つ者が稀に生まれるからいいにしろ、それでも塩や胡椒などの調味料、香辛料は高い。100円均一で殆ど変えていた世界とは違うのだ。

 しかし、彼にはそのことに対する慣れもあった。否、むしろこちらの世界のが生きやすいとも言えた。

 それは男の持つ魔法、『物質想像魔法クリエイトマジック』。の物を作り出せる恐るべき魔法が原因だ。

 法整備が碌にされていないこの世界では、偽造硬貨だろうが武器防具釣り竿だろうが何でも作り放題だったのだ。

 創造神を名乗る神が作った金貨、銀貨、銅貨にはすべてに偽装防止の魔法陣が仕込まれている。だからこそそれは全世界で使われる統一硬貨となっており、本来なら作れるものではない。しかし、男の魔法はを作ることができてしまった。

 そもそも偽造硬貨を作ることが不可能だからこそ、偽造硬貨の作成に関する法という物はない。つまりは、硬貨の偽装という犯罪が犯罪ではない世界だったのだ。そして男は城での扱いに結構怒っていたのだ。


 とはいえ、大々的に行うわけではない。

 その気になればヤタローブ王国を潰せるとはいえ、『勇者』として召喚された少年少女たちのことを思えば、そこまでするほどでもないと考えた。

 それだけでなく、来るべきに備えることが重要だ。と男は考えた。

 



 ■□■□■ 



 そうして3年後。来るべき時が来た。


 男はそのひと月前にオランディに拠点を移していた。

それは、ちょうど男が夕食のために拠点としている宿屋の食堂に降りてきた時のこと。


「外観も普通なんだけど、ここホントに空いてんのか?」


 扉を開けて入ってきたのは高校生ほどの黒髪の少年と10歳くらいの少女だった。

 少年男の方はどうでもいいとして、少女は実に美しい。柔らかそうな白い肌、艶やかな長い黒髪、穢れを知らなそうな純粋な瞳。

 少女の着るこの世界ではかなりの高級品であろうがデザインは普通の域を出ない。

 しかし、それを引き立てに少女の可愛らしさが跳ね上がっている。

 

──可愛さ力200000000…………300000000…………ば、バカな! まだ上がっていくだと!

 

 チッ、スカウターが爆発しやがったか……だが仕事は果たした。

 今こそが来るべき時、合法ロリの気配がある彼女へ──!!!!


「一目見た時から好きでした。結婚してください」


 そうして男はニチャリと、気色の悪い笑みを浮かべてプロポーズした。

 彼が逮捕されるのは近い未来だろう。

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