第一話 安全な動機 1-1

 身に覚えがないのに突然嫌われるということほど怖いものはない。

 僕は今年から都内の大学に通う大学生で、月日はあっという間に経過して4月が過ぎ5月も大型連休が明けた。まさにそんな日、5月9日。いつも通りの授業に出席する為に教室に入ると仲の良い友人が先に席に着いているので、声をかけようと近づくが何かが違うことに気が付く。彼の周りの空気というか雰囲気というか。とにかく何かが違うだの。その違和感に僕は少しの躊躇と少しの思考を必要とした。しかし、この感情は意外な形で破られ、つまり彼から僕に話しかけてきたのだ。

 「ねぇ、」彼の顔からは感情が読み取れる、ただ僕はそれを表現できる言葉を持っていなかった。「悪いんだけど、もう僕に近づかないでくれないか。」

 僕は立ち尽くす他になかった。今まで彼に対して何か機嫌を損ねるようなことをしてしまったのではないかと逡巡する。頭は激しく動いているはずなのに冷たく、体はただ立っているだけなのに汗が止まらなかった。

「ごめん。僕、何か迷惑かけちゃったかな?」

「いや、君自身が悪いわけじゃないんだ。ただ君みたいな人もいるということを理解しない社会が悪いのだし、それを受け止めきれない僕の心の狭さが問題なんだ。本当に申し訳ないと思ってる。ただ、もうこれでお終いにしてほしいんだ」

 すると彼は席をたち、教室から出て行ってしまった。いったい、何が起きたのか僕にはわからなかった。誰にもわからないんじゃないかと思った。

 「君自身が悪いわけじゃない?」「君みたいな人もいる?」「社会が悪い?」

 どういうことだ。僕は、いや、僕が何か問題なのか。眩暈がするような、ただそれは真っ白でも真っ暗でもなく、静寂のなかで自分の異変に気づけない自分に異変を感じた。気づけば教室は僕一人になっていた。

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