安全な殺人 Safe marder

美綴

プロローグ

 公園には血を流した人が俯せに倒れていた。意識は無いようだ、呼吸も無いようだ、そして周りにはなにより人気が無いようだ。午後十時丁度を示す公園の時計の針を除いて、僕と血を流した人と遊具だけが動き方を忘れたようだった。公園のざらざらした地面に血が染みていく。僕は助けを呼ぶべきなのかもしれない。ここは入り組んだ路地の先にあり、ここで通りかかる人を待って知恵を借りるよりは、携帯電話を使った助けの求め方の方が賢明な対応に感じる。助けを呼ぶべきだという僕の本能が携帯をポケットから取り出し、番号を押し、コールがして、相手が出て、僕の口から音が言葉となる。

 「事件だよ」「今何時?」「午後十時丁度」「どんな事件よ」「人が血を流して倒れてる」「それから?」「周りに人はいない」「そう」

 そっけなく、返される言葉。

 「こういうとき、どうすればいいかな」「取りあえず逃げなさい。周りには誰もいないんでしょう?」「逃げて、どうすればいい」「とりあえず、水でも飲んで落ち着いたら。あなた、自分の呼吸が早くなっているの、気づかない?」「でも、目の前で人が倒れているんだよ?」「倒れてるから何よ?」「助けなくていいのかな」「あなた、気が動転してるのよ。」「どういうこと?」「だって、本当に助けたいならまず私に話すのではなく、もっと助けを乞うべき番号があるでしょう?」

 僕は電話を切った。そして、僕が助けられたかもしれない命を断ち切っていることを知った。

 理由は簡単だ。彼女がそういうのだから。

 そう、彼女がそういうのだから。

 

 

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