第2話 一人ぼっちの生活の寂しさを紛らわすためペットを飼うことを考えたが、ペットOKな物件だったのか気になってきたようで飛び出すフライングネットレビューの恐ろしさに反応したのか防犯ブザーも鳴る始末

 現在、三尾森さんの住む世界にはゾンビが大量発生しており、三尾森さんはゾンビに狙われないという特異体質で危機を乗り越えてきた。

 しかし、待っていたのは一人ぼっちの孤独な生活である。彼女は非常食用のカップラーメンを食べながら退屈な日々を過ごしていた。


     * * *


 ある日、三尾森さんは近所のレンタルビデオ店に侵入して退屈しのぎのため鑑賞用DVDを探していた。店内の照明は落ちて窓も閉じられているため、内部はかなり暗くなっている。床には棚から落ちたDVDケースなども散乱しており、足場も悪い。


「街中の洞窟やで、これは」


 三尾森さんは自宅から持ち出した懐中電灯でDVDの棚を照らした。気になったタイトルを一つ一つ手に取りパッケージをじっくり眺め、今夜自宅で鑑賞する映画を厳選していく。


「あ、これ話題だったやつじゃん。ネットのレビュー酷かったけど」


 三尾森さんの目に留まったのは、1年ほど前公開されたゾンビパニック映画だ。彼女が一度は見てみたいと考えていた作品である。つい気になってネットで評価を先に見てしまったが、ネットの評価なんて信じない三尾森さんは『それでも見たい』と考えていた。


「まあ、いいか、これで。こんなときに見るのはすごく不謹慎だけど」


 三尾森さんはその映画のパッケージをマイバッグの中に入れ、店の出口へ向かう。


 そのとき、


 ビーッ! ビーッ! ビーッ!


 突然、謎の警報が店内に鳴り響いた。


「うわぁ、何? びっくりしたぁ」


 警報の原因はDVDパッケージについていた電子部品が店の出口に置いてある盗難防止装置に反応したことだった。三尾森さんは普段からこの店を利用していたわけではなかったので、店員が貸出の手続きの際にどのような処理をするのか知らなかったのだ。


「……ァ……ウァ……」


 この警報を聞いた店周辺のゾンビたちが一斉に彼女の方を向き、ぞろぞろと歩き出す。その数はおよそ50体以上で、ゾンビの波が一気にレンタルビデオ店へと押し寄せ、店内はゾンビたちで一気に過密状態になった。


「これで店は大繁盛だね」


 ゾンビたちが入店する前にさっさと外へ出た三尾森さんは、そう言い残して自宅へ戻っていった。


     * * *


「さあ、見るぞ!」


 太陽が沈んで周辺が暗くなった頃、三尾森さんは自宅のリビングでマイバッグの中からDVDを取り出し、ノートパソコンにセットした。映画が始まり、彼女の視線は画面に釘付けになる。大きめのゆったりとしたソファに腰かけ、鑑賞会は開始された。


 映画のあらすじを簡単に説明しよう。

 ある日、アメリカ西海岸の街で謎のウイルスが発生して死者が甦り、国家が大混乱に陥る。主人公トムは息子ジャックと愛犬マックスを連れて、生存者を襲うゾンビから生き延びるため奮闘していく、という内容になっている。


「ゾンビに狙われるって大変よねぇ」


 先日カップラーメンと一緒にコンビニエンスストアから持ち出したポップコーン(うす塩味)をもしゃもしゃと音を立てて食べながら、三尾森さんはそう呟いた。


 トムは息子と愛犬を連れ、軍の検問所で救助してもらうために長距離の旅を続けた。もうすぐ検問所というところで日が暮れ、近くの小屋に野宿することになったのだ。

 しかし、息子ジャックが小屋にあった建材の山を倒してしまったことで大きな振動が発生し、ゾンビたちに気づかれてしまった。一刻も早く小屋の中から逃げ出すため、トムはここから全速力で逃げようと、怖がるジャックを説得する。


「おい、ジャック! 早く一緒に来るんだ!」

「無理だよパパ! だって外にはあいつらがたくさんいるよ、こわいよ!」

「大丈夫だ、いつもパパが傍にいる」

「……本当?」

「ああ、本当だ」


 トムは息子の手を握り、小屋の扉を勢いよく開けて外へ飛び出した。愛犬マックスも同時に走り出し、ゾンビの群れを回避しようとした。


 しかし、


「痛っ!」


 もう少しで振り切れそうなときにジャックが転倒し、握っていた手が離れてしまった。ゾンビがジャックのすぐ傍まで迫り、絶体絶命のピンチに陥る。

 しかし、そのとき、


「ワン! ワン!」


 愛犬のマックスがゾンビに向かって勇敢にも体当たりし、ゾンビはバランスを崩しよろめいた。


「急げジャック!」


 その隙にジャックとトムはゾンビの群れから大きく距離をとり、完全に引き離すことが出来た。しかし、マックスは囮となって吠えながらどこかへ消えてしまった。


「マーーーックス!」


 トムが名前を叫んでも、もうマックスは帰ってこなかった。


 結末をざっくり説明してしまうと、トムとジャックは検問所へ無事に着いた。しかし、ウイルスに感染しているのではないかと疑われた彼らは、軍上層部の命令によって兵士たちに蜂の巣にされる、というものだった。


「うぉ……ひどいわ……。軍人ってほんと残虐だわ」


 ゾンビに襲われる生存者を放置する自分のことを棚に上げ、「残虐」や「冷酷」など、映画を見た感想を独り言で述べていく。

 三尾森さんはこの映画を見て、この世で一番残虐な生物は軍人だと思い知った。


「これは確かにネットの評価荒れるわ」


 三尾森さんはDVDのパッケージを手に取って眺め、しばらく感慨に耽っていた。

 それと同時に、マックスの行動に感動した三尾森さんには、現在の孤独な生活の寂しさを紛らわすため、犬を飼いたいという欲望がふつふつと沸き上がっていた。


「飼いたいなぁ……犬」

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