☆ 捕食

 天使が人を喰ったという噂は、すぐに現実の映像となって世界中に流される。

 各国のテレビ局は、もちろんその直接的な情景を映し出すことを控えたけれども、インターネットや他の規制のかかりにくいメディアに瞬く間に流出し、ショッキングな映像として氾濫する。


 天使には普段口がない。


 しかし捕食の瞬間、口に相当すると思われるその個所がグァヴァッと開き、金属光沢に輝く牙が、鷲づかみにした被害者を頭から切り裂くのだ。


 天使の口は小さい。

 そしてその指先は長くて繊細だ。


 だから大きさの比較から言えば人間なんて丸呑みにできそうなものだったけれども、天使たちはそういう食事作法を採ることはない。

 一度に大量の食事をすることもない。

 でもそれ以降、その行為が天使たちの行動パタンの中に必ず含まれるようになる。

 空が割れ、雷鳴の中光臨し、無為のときを過ごし、人を喰らい、そして薄れるように消える天使たち。

 そしてまた空が割れ、光臨し、無為のときを過ごし……と繰り返される。


 多くの人たちは天使を畏れるようになる。

 もはや、それは畏怖ではない。

 当然、警察も軍も天使を敵として認識し、場合によらず攻撃を仕掛けるようになる。

 対天使対策本部も設置され、世界的な機関として運営され始める。

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