08/14/11:00――VV-iP学園

 随分ずいぶんひろいヘリポートに着陸ちゃくりくし、ヘリをりれば、すくなくともおれたちがってきたのをふくめた四台よんだいのチョッパーがならべられていた。そのとなりにある戦闘機せんとうきについては、武装ぶそう搭載とうさいしていないとはいえ、りをしておいたが、りたカゴメはテンションげて、そちらにいついていたので、放置ほうちしておく。

「うわー……あれ、戦艦せんかんですか?」

「ん? ああ、あのかたち見覚みおぼえがあるな。おそらく巡洋艦じゅんようかんだ、そのとなりにあるのが駆逐艦くちくかん随分ずいぶんかずがあるが、ここは軍港ぐんこうではないはずだ。まったく、どうなっているのか、さっぱりわからん」

 あのタイプのかんとなると、おそらく復元ふくげんされたレプリカだろうけれど。

兎仔とこちゃんからはいていないんですか?」

「ああ。ここがどこなのか、っているのか、天来てんらい

「はい。野雨のざめにある鈴ノ宮すずのみや邸宅ていたくですよ。魔術師まじゅつし家名かめいでして、元軍人もとぐんじんおおくいます。保護ほごしているというか、ごまとして確保かくほしているというか……いずれにせよ、かれらは自分じぶんたちの意志いしでここにとどまり、鈴ノ宮すずのみやさんの手伝てつだいをしているらしいです」

「そうなのか」

 指示しじされた通路つうろ沿ってあるけば、やがてにわらしき場所ばしょた。違和いわかんじてけば、滑走路かっそうろえないよう〝迷彩めいさい〟がかけられている。広範囲こうはんい術式じゅつしき常時じょうじ展開てんかいしているのか……まあ、必要ひつよう措置そちなのかもしれないが。

 視線しせんもどせば、右手みぎてがわ無骨ぶこつなコンクリートの建造物けんぞうぶつがあり、そのおくに、おおきい屋敷やしきがあった。西洋風せいようふうとでもえばいいのだろうか、かなり豪華ごうか――というか、部屋へやおおそうな建造物けんぞうぶつだ。にわあるいている侍女メイドが、手前てまえのコンクリートの建造物けんぞうぶつはいってくのが視界しかいはいった。

使用人しようにん必要ひつようだろうな」

「そうみたいですね。元軍人もとぐんじんさんたちも、その、使用人しようにんみたいなものだといたことがあります」

保護ほご、か。それがわる意味いみではないということはつたわった。どうする、挨拶あいさつでもしていくか? いがいそうで、なんというか複雑ふくざつだが」

わたし複雑ふくざつですよ」

 どちらかといえば、いなくなったいのはなしをされるのが、複雑ふくざつだ。りたいともおもうし、っておかなくてはならないともおもうが、やはり、りたくないともおもってしまう。

 ふいに、コンクリートの建造物けんぞうぶつからた、少年しょうねんともおもえるおとこが、こちらにづいた。おれ遠目とおめでもかおがわかったので、すこおどろいて片手かたてげる。

「おい天来てんらいおれたちはツイてる」

「へ? そうなんですか?」

「ああ。面倒めんどうがすぐにみそうだ」

 あしければ、少年しょうねんもこちらにちかづいてきた。東洋人とうようじん風貌ふうぼうで、かおには、ややぎこちないみ。おれ挨拶あいさつされたことも、こうしてばれたことも、よくわからないというかおだ。

 さすがに――上手うまい。

「こんにちは。来客らいきゃくかたですか?」

「いや、ヘリで移動いどうしてきたばかりだ。おそらく、ここにはようはない――はずだが、おまえにはようがあってな」

ぼくに……ですか?」

 やはり、わからない、というかお雰囲気ふんいきそのものも、このにはやや似合にあわないような、どこかよわさをはらんだものがあった。

 だがかまわず、おれうなずいてう。

もとにはなるが、おれ六三○七ロクサンマルナナだ。こいつは天来てんらい、あとで調しらべればおまえならわかるだろう。ナナネでの仕事しごとについて、おまえ上司じょうしである三○一ファーストはなしをしたい――あくまでも確認かくにんだ、らなければそれでいいが、できれば伝言でんごんだけでもたのむ。おれ連絡先れんらくさきはこちらだ」

 ポケットから携帯端末けいたいたんまつし、番号ばんごう表示ひょうじさせてせれば、視線しせんとした少年しょうねんが、苦笑くしょうたものへと表情ひょうじょうえていた。

「わかるんですね」

「おまえかおえていないからな。朝霧あさぎりさんの直下ちょっかなら、だれでも調しらべてっている」

「ははは、そのくらいのことができないと、部下ぶかはやっていられませんか」

「そういうことだ。――それで?」

「じゃあ、ぼくがあなたたち二人ふたりのことを調しらべたうえで、打診だしんしておきます。連絡先れんらくさきおぼえました、もう結構けっこうです。朗報ろうほうがあるとはかぎりませんよ?」

「それでいい」

「あ、わたし二年前にねんまえまで、二○一フタマルでした」

「そうでしたか……」

「なんだ天来てんらいうのか」

不知火しらぬいくんも、番号ばんごうっていましたし、かまわないでしょう。〝かっこう〟のひとなんですよね? わたし尻尾しっぽつかんでいませんでしたけど」

百足むかでかたなら、そんなひまはないかと」

「フォローをありがとうございます」

「そういうつもりではなかったのですが……これから、野雨のざめ観光かんこうですか?」

「ああ、そのつもりだ」

元忠犬もとちゅうけんでしたら、VV-iP学園がくえん二人ふたりいらっしゃいますよ。あなたの上官じょうかんたるかたは、野雨のざめ西にし高等こうとう学校がっこう在籍ざいせきしています」

「そうか……そういえば、そんな学園がくえんがあったのだな。ありがとう、ってみよう。すまん、邪魔じゃまをしたな」

「いえ、たわむれにかおせたぼく迂闊うかつでした。いくら仮面かめんかぶっているとはいえ、見抜みぬかれてもたいした問題もんだいにはならないと、そうおもったぼくです。では、どうぞたのしんでください」

「ああ」

「はい、ありがとうございます」

 だったら、まずは学園がくえんとやらにかおを――。

「そういえば、どこにあるのからんな」

「あ、わたしってますから、案内あんないしますよ。といっても、調しらべればすぐわかりますけどね」

「そうなのか」

「あの、さっきのひとい――じゃ、ないんですよね?」

「ん、ああ、直接ちょくせつかおわせるのははじめてだ。こえわすのもな。いずれにせよ、あっちがおれっていたら、のこのことかおさないはずだ」

「うーん、そうですよね。うん、そのとおりですけどね、ええ」

「あまりにするな。ああってはいたが――おれ見抜みぬかれた程度ていどで、どうにかなるタマではない。おそらくはみだろう」

 釈然しゃくぜんとしない様子ようすではあったが、話題わだいるようにしておれたちは屋敷やしきた。

「その学園がくえんとやらについて、情報じょうほうはあるか?」

「あ、はい」

 電気でんき自動車じどうしゃにおける自動じどう運転うんてんシステムの確立かくりつはいつごろだっただろうか。間違まちがいなくその根源こんげんには芹沢せりざわ企業きぎょうかかわっているが、そのために事故率じこりつ極端きょくたんすくない現状げんじょう、それほど意識いしきせずともいが、おれ自然しぜん車道側しゃどうがわあるく。

「VV-iP学園がくえんは、なんというか、とりあえずおおきいです。おおきいというか、ひろいですね」

随分ずいぶん曖昧あいまいかただな。具体的ぐたいてきには?」

「そうですねえ、おな敷地しきち高校こうこう大学だいがく校舎こうしゃがありますけど、普通ふつう学科がっかだけでも校舎こうしゃみっつあります。うちの学校がっこうって、それなりにおおきいですよね?」

「ああ、使つかわれていない教室きょうしつおおいからな。どうしてと、疑問ぎもんおもったのがなつかしい」

「あれでも、学園がくえん普通ふつう学科がっか一学年いちがくねんとうよりもちいさいですから」

「……は?」

 そんなものが、おな敷地しきちみっつある? どういう冗談じょうだんだ?

校舎こうしゃだけでうと、教師棟きょうしとう普通ふつう学科がっか学年がくねんごとにひとつずつ、施設棟しせつとう大学だいがく校舎こうしゃはちょっと除外じょがいして、特殊学科棟とくしゅがっかとう、プレハブ校舎こうしゃ、あとは道場どうじょうなんかもありますし、体育館たいいくかんというか講堂こうどうもあります。グラウンドもかなりひろいですよー」

「なんというかそれは……いわゆる、なんだ、学園がくえん都市としちかいんじゃないのか?」

「あはは、そこまでの規模きぼにはいたらないかもしれませんけれど、そうかもしれませんね」

 ざっと生徒数せいとすう概算がいさんしてみるが、とんでもない数字すうじてきた。おれっているおおきな学校がっこうといえば、コロンビア大学だいがくになるのだが、表向おもてむきは〝らない〟ことになっているので、くちにはせない。というか、朝霧あさぎりさんが内緒ないしょかようからせと、どういうわけかおれ仕事しごととしてられたので、まあ、だまっているしかないのだが。

「あとカリキュラムが特殊とくしゅですね。出席しゅっせき自由じゆうで、年末ねんまつにある進学しんがく試験しけんとおればそれでしです」

「ああ……」

 それは理解りかいできるはなしだ。授業じゅぎょうけるもけないのも自由じゆうで、そこに強制力きょうせいりょくはたらかせないが、しかし、最終的さいしゅうてき試験しけん一度いちどだけおこない、それで白黒しろくろつける。日日ひびかさねがどれほど大事だいじかを、かれらはることになるだろう。

 そもそも――みちがあるのは、あまさだ。以前いぜん金代かなしろともはなしたが、授業じゅぎょう活用かつようするかいなかを、生徒せいとたちにまかせるのならば、これくらいの〝しめし〟をしてしい。活用かつようできなければもう一年いちねんやれと、そういうことだ。

特殊とくしゅ学科がっかというのは、いわゆる専攻せんこうか?」

「はい。全部ぜんぶおぼえてないですけど、へん学科がっかもありますよ。魔術まじゅつ学科がっかとか、蓄積ちくせき学科がっかなんかがにつきましたね」

魔術まじゅつ学科がっかはおそらく、座学ざがくだろうが、その蓄積ちくせき学科がっかとはなんだ?」

古今東西ここんとうざい、あらゆる知識ちしきたくわえるだけの学科がっかだそうです」

「……馬鹿ばかか?」

「あはは、実際じっさい卒業生そつぎょうせいもいますから、なんともえませんね。ある字引じびきになってしまわなければいのですが」

おぼえるだけおぼえて、それが活用かつようできるのならば、字引じびきだとてわるくはないとおもうが、たしかに経験けいけんかさねたほう有用ゆうようだろう」

「……こういうの、くわしいのですか?」

「いや、そうでもない。多少たしょう興味きょうみはあるが、そのくらいなものだ」

「そうですかー……あ、えてきました。あれです」

企業きぎょうビルがならんでいるのではないのか、あれは」

「あはは、そうえますか」

 随分ずいぶん背丈せたけたか建造物けんぞうぶつえる。それと同時どうじに、ひと存在そんざいりなす密度みつど、あるいは活気かっきともべるそれが、はだかんじられた。

「あ、こっちは大学だいがく校舎こうしゃちか出入でいぐちですね」

「ああ……この敷地しきちひろさだと、出入でいりも複数ふくすう方向ほうこうになるのか」

「そうです。といっても、わたし地図ちず確認かくにんしただけなんですけどね。なかはいるのははじめてです」

随分ずいぶん開放かいほうされているな……っと、天来てんらい

「なんですか?」

つかれたときには遠慮えんりょなくってくれ。おそらくカゴメがゴネたんだろう、ヘリの時間じかんながかったからな」

「あはは、お気遣きづかいありがとうございます。そうなったときは、じゃあ、いますね」

「そうしてくれ。まあおれとおまえだ、遠慮えんりょなんかいらんだろう?」

「……、わたし不知火しらぬいくんって、どういうなかなんですか?」

「それはむずかしい問題もんだいなので、自宅じたくってかえってから、熟慮じゅくりょすえなにかしらの返答へんとう書類しょるいわたそう」

「あははは」

 即答そくとうできなかった。そんなことはかんがえもしなかったから。

 しばらくは観光かんこう気分きぶんであちこちあるいたが、時間じかんればひるちかかったので、大学だいがく校舎こうしゃなかはいったおれたちは、手近てぢかにあった食堂しょくどうこしけた。そもそも制服せいふくもなければ、ぐちでの認証にんしょう必要ひつようがないため、おれたちのような部外者ぶがいしゃ平然へいぜんはいむことができる。ただし、授業じゅぎょうおこな教室きょうしつには、学生証がくせいしょう必要ひつようらしく、はいることはできないが、そもそも、そこまでの興味きょうみもなかった。

「つまり、授業料じゅぎょうりょうけた授業じゅぎょう単位たんい支払しはら仕組しくみになっているのだな」

「そうみたいですね。なんというか、放任ほうにん合理化ごうりか複雑ふくざつからっているような場所ばしょです」

 ちなみに、食堂しょくどうのカウンターで注文ちゅうもんしたのはパンるいである。サンドイッチもふくまれており、もの随分ずいぶん種類しゅるいのある自販機じはんき入手にゅうしゅした。かみコップのものだが、おれ緑茶りょくちゃ選択せんたくし、天来てんらい紅茶こうちゃだ。本当ほんとうこしけたいのならば、喫茶店きっさてんにでもはいるだろうし、ここでは、こういう食事しょくじかまわないだろうと、かるはなった結果けっかである。

 まあ、おんなへの気遣きづかいとして、あるつかれただろうなんて配慮はいりょ必要ひつようなのかもしれないけれど、くさっても天来てんらいだとて元軍人もとぐんじんなのだ、この程度ていどげるようなおんなではない。だからといってあるどおしの訓練くんれんをしているわけでもないだろう。

 ……なにをしにたのか、わすれそうになるが。

不知火しらぬいくんは、こういう学園がくえんかようのは、どうですか?」

馴染なじめるかどうか、とわれれば、まあ、なんとかなるんだろうが……余計よけい孤立こりつしそうなかんじはいなめないな。すくなくとも、のんびりはできん」

ったことかもしれませんが、不知火しらぬいくんがナナネへの転属てんぞくのぞんだのですか?」

転属てんぞくえば語弊ごへいがあるな。だがまあ――そうだな、田舎いなかでのんびりした生活せいかつがしたいと、そうったのはたしかだ。あいつが……ホーナーというおれの、最初さいしょくした戦友せんゆうが、のぞんでいたことだった。あいつは、さきにそっちにっちまったからな、それがどんなものか、たしかめるつもりではあったんだが……」

「そうだったんですね。どうですか?」

「はは、呑気のんき生活せいかつなんてのは、あっちにしかないと、文句もんくっておいた」

 それがとどいているかどうかはらないが――ん?

「あれは」

 ややつきがわるく、かたよりなが黒髪くろかみおんなはいってきて、おれみじか硬直こうちょくおぼえた。その緊張きんちょうにも気配けはいさっしたのか、彼女かのじょおれて。

 だから、かたちからいて片手かたてげれば、うなずきがかえる。彼女かのじょはそのままカウンターで注文ちゅうもんまし、カレーをっておれのところへた。

「ルゥイ」

 あまり表情ひょうじょううごかさないような、どこかあきらめをけたような、いつものかおで、彼女かのじょは、七草ななくさハコは、そこにいた。

だれかがいるとはいていたが、ハコだったのか」

「あ、おとなりどうぞ」

「ええ、ありがとう。……? 〝アイス〟じゃない、どうして一緒いっしょに?」

おれ配属はいぞくされた場所ばしょ寮母りょうぼをしているんだ。たまにはこうしてして、息抜いきぬきでもさせてやらねばな。――おれ役目やくめじゃないが」

「そう。役目やくめはこの下水管げすいかん掃除そうじかしら? わたしはヘイキュリー……ハコでいいわ」

「あ、はい。天来てんらい穂乃花ほのかです。あの、わたしのことはご存知ぞんじなんですか?」

「なあに?」

ってない」

あきれた。以前いぜん調しらべてるのよ。名前なまえまではらないけど、かお通称つうしょうくらいはってる」

「……え? あの、不知火しらぬいくんも、ってたんですか?」

くわしくはらない。だが、最初さいしょったときに、女狐めぎつねっただろう……」

「それだけでさっせるわけないですよね⁉」

おれだとでもいたげだな……?」

「いえ、そういうことじゃないですけど、ですけど!」

一応いちおうっておくけれど、わたしいぬよ。といっても、厳密げんみつえばルゥイとっていたのは退役たいえき――予備役よびえき登録とうろくときね。まあわたしたちの場合ばあい全員ぜんいんうごきが予備役よびえきたようなものだったけれど」

 されて現場げんばき、仕事しごとえればもどって呑気のんきにしている。まあたしかに、予備役よびえきたようなものだ。居場所いばしょ報告ほうこく義務ぎむはあったし、ベースそのものを、ハコの場合ばあい日本にっぽんにしていたらしいが、だからといって、国内こくない仕事しごとばかりでもなかったはず。そういうときに、いぬ宿舎しゅくしゃかおわせた。

「それで? ルゥイはどこに配属はいぞく?」

「ナナネだ。すこまえにトラブルがあったのは、いていないのか?」

調しらべてないもの」

 これだ。まったく、このおんなは、そういうところが素直すなおで、かくさないからぎゃく面倒めんどうだ。おれ説明せつめいしろ、という催促さいそくなんだろうが、らぬりが一番いちばんである。

「ここには二人ふたりいるといていたが、ケイミィか?」

「……わたし北上きたかみがセットみたいなかたわないわね」

ちがうというのなら証明しょうめいしてせろ。それはつまり、ここにケイミィがいないという証明しょうめいだ。どうなんだハコ」

「いるけれどね」

貴様きさま本当ほんとうに……皮肉ひにくかんな!」

「いちいちけてたら便所べんじょひまもないもの。こんな野郎やろうどものはなしなんて、みぎからひだりでいいのよ。天来てんらいもそうなさい」

「あ、はい、どうもです」

おれ天来てんらい余計よけいなことをおしえるな」

一応いちおうっておきますけど不知火しらぬいくんのものじゃありませんからね⁉」

「どうだこの反応はんのう速度そくどは。うらやましいか?」

北上きたかみってる」

 もう一人ひとりいるのは、おとこ同僚どうりょう北上きたかみ響生ひびき英字えいじにするとKITAKAMIになり、KAMIの部分ぶぶんをケイミィとんだおとこがいて、そのせいで定着ていちゃくしたのだ。おれもその一人ひとりである。

「ああ、ちなみにわたし兵籍へいせき番号ばんごう六一一六ロクヒトヒトロクよ。調しらべるさい使つかいなさい」

「どもです」

「まあうちなんて、番号ばんごうそのものに意味いみはないけれどね。で、どうしたの? 同窓会どうそうかいさそいなら、またにしてちょうだい。かんがえる時間じかん必要ひつようだから」

気持きもちがわかるから、おれもそんなさそいはしない。デートちゅうなら、もっとべつ場所ばしょくし、結婚けっこん報告ほうこく事後じごにする。しきんでわるさをする連中れんちゅうばかりだからな」

「そうね。でも離婚りこんしたはなしかないわよ?」

「つまりんでわるさをしたおれたちが、上手うまくやったと、そういうことだ」

後片付あとかたづけをまわされたどっかの部署ぶしょあたまいたかったでしょうねえ……」

「……あのう」

「なに?」

平然へいぜんはなしていますけど、それ、本当ほんとうにあったことなんですよね?」

冗談じょうだんわないわよ」

ときかならず、最後さいご冗談じょうだんだとつける」

「なんというか、そういうらなくてもいいようなことを、はなしてしくはないんですが……」

あきらめろ」

「それが一番いちばん気楽きらくでしょうね」

「このひとたちちょっとへんですよ……?」

 そうか? だいたい、こんなかんじだが。

「まあいい、さき本題ほんだいだ。ハコ、業者ぎょうしゃ手配てはいはできるか?」

「なに?」

構築こうちくだ」

「ああ、そっちは北上きたかみってる。いま仕事中しごとちゅうね」

「ほう?」

 携帯端末けいたいたんまつ操作そうさしたかとおもえば、ちいさい音量おんりょうなにかをながす――これは、ラジオ番組ばんぐみか? 意識いしきしてけば、ながれているこえおぼえがあった。

「これは?」

「うちの学内がくないラジオ。わたしとはちがって北上きたかみ昼間ひるま生放送なまほうそうだから」

「おまえもやっているようなくちぶりだな?」

収録しゅうろくだけれどね。北上きたかみはリアルタイムでコメントけながらはなすのよ」

 ぱたぱたと端末たんまつれて操作そうさしたかとおもえば、どうやらコメントやらをおくったらしい。だからといって、そのコメントをひろうかどうかはべつ問題もんだいだろう――。

『だからまあ、おれとしても? そこらへんの気持きもちは――……、うおっ! あぶねっ、放送ほうそう事故じこになるところだった! おいおまえら、いまからすげープライベイトなことうからな! てめえコラ身内みうち! そういう情報じょうほう番組ばんぐみじゃなくておれ携帯端末けいたいたんまつおくれよ! どういうことだ、マジか、どうなってんだっておもわずかんがえちまったじゃねえか!』

 ひろうなよ、番組中ばんぐみちゅうだろうに。

「……元気げんきでやってはいるようだな」

「そっちは?」

てのとおりだ」

「そう。観光かんこう?」

たようなものだな。前回ぜんかいけん朝霧あさぎりさんからのたのみだったが、軍曹殿ぐんそうどのかおせてくれた。そのさい、こちらの温泉おんせん旅館りょかん招待しょうたいされてな」

兎仔とこさんが? ……あんたも、安堂あんどう一緒いっしょめぐまれてるわ」

ほうってはおけん、という意味合いみあいでは、おまえらよりもおとっている証左しょうさだ。トゥエルブがどうであれ、な」

「あら、天来てんらいがそれをふせ役目やくめじゃなくて?」

「へ?」

「――おれのぞんでいない」

「そんなことはいてないわ。あんたはのぞまないことないでしょうに」

「ふん」

 ハコからは、何度なんどもそれをいた。わせてしまうおれわるい――とおもってしまうのも、ひとつの要因よういんなのだが。

「それで、天来てんらいはルゥイのはなしきにきたの? 面白おもしろはなしはそうねえ……」

北上きたかみ狙撃そげき事件じけんのことか?」

「ああ、どういう訓練くんれんしたんだってかれたから実践じっせんしたやつね」

「……? 実践じっせん?」

おれがメイリスの弟子でしだったのはいただろう。あのおんなちょう長距離ちょうきょりからゴムだん狙撃そげきつづけてな、ねらわれたおれはそれをける訓練くんれんだったんだが」

「そんな訓練くんれんいたことありませんよ⁉」

いまにしておもえば必要ひつよう訓練くんれんだったとわかるのがしゃくだがな……」

 おれあつか術式じゅつしきにせよ、射線しゃせんそのものの意識いしき必要ひつようになる。それは自分じぶんのものだけではなく、だれかがおれねらっている場面ばめん想定そうていされ、つまりはそうした意味合いみあいでやったわけだが、手配てはいしてくれた上官じょうかんには感謝かんしゃもするが――。

 本当ほんとうにあのクソおんなつぎったらおぼえておけよ。シチュエーションによっては武装ぶそうすからな。

「ストリッパー撲殺ぼくさつ未遂みすいはどうだ」

「それはわたしはなしでしょ。ブラックバス養殖ようしょく事件じけんとか」

「あれは最終的さいしゅうてきったから問題もんだいない」

「あのう……物凄ものすごく、物騒ぶっそうというか問題もんだい発言はつげんのようながするんですけど」

「そう?」

「はい。ここでいているといたくなりそうですよ……」

 そうなのか。わらばなしだとおもっていたんだがな、あんなのは。

「まだいるの?」

「それほどいそいではいないが」

「だったら、もうすこしここにいなさい。北上きたかみんでくるから」

無理むりをせずともいんだがな」

「そうね」

 カレーをえたハコは、すぐにせきつ。

天来てんらい

「はい?」

「この相変あいかわらず、おんなあまいから。したほうくわよ」

「えっと……それをいたわたしはどうすればいいんですか」

「ヘタレとばれたくないなら、どうにかなさい。じゃあね」

 ふん、余計よけいなことを……というか、なになやんでいるんだ天来てんらい。いいからながせあんなの。

「でも、仲良なかよさそうでしたね?」

「なんだ嫉妬しっとか? 安心あんしんしろ、あっちは同僚どうりょう、おまえ寮母りょうぼ。つまり――」

 つまり、……なんだ?

「おまえほう年齢ねんれいかさねているということか……?」

「そっ……、――そうですけど!」

冗談じょうだんだ、それほどわらんだろう。というか、それほど年齢ねんれいにするものか?」

「いじるのは不知火しらぬいくんですよね⁉」

「……おれわるいということか?」

疑問ぎもん介在かいざい余地よちはないですよ!」

案外あんがいこまかいところをにするんだな、おまえは」

こまかくないですよう……」

 おれにとっては年齢ねんれいよりも、背丈せたけ禁句きんくだったからなあ。

 食事しょくじえてトレーをかえしても、食堂しょくどううような様子ようすはない。けば、どうやらたような食堂しょくどう各地かくち分散ぶんさんしているらしく、購買こうばいべつにあるようで、おれたちは食後しょくごのおちゃをのんびりとんでいたのだが、おそく、ようやく青白あおじろえるほどかみったおとこ姿すがたせ、自販機じはんき飲料いんりょうってこちらにた。

「おいルゥイ、いいかこの野郎やろう……」

おれへの文句もんく最初さいしょとは、一体いったいどういうことだケイミィ。おまえおれとなり馬鹿ばか野郎やろう

「おまえおんなとなりすわりはしねえよ。いいかけ。あのな? おまえ帰宅きたくしたときいがこううわけだ。あんたのいだっていう野郎やろうかおせたけど、おまえがいなかったからかえったぞと。名前なまえいたら同僚どうりょうだという。――どうなんだ? ああ?」

間違まちがいなくうらって、各所かくしょ連絡れんらくれつつ、まずはいえの〝掃除そうじ〟からはじめるだろうな……」

「それができねえ仕事中しごとちゅうへん情報じょうほう寄越よこしやがって!」

寄越よこしたのはハコだ。どういう情報じょうほうかはらん」

「おまえ婚約者こんやくしゃれてたとあったんだよ……」

「あの、婚約こんやくとか、ちがいますからね?」

「ん? ああ、そこはうたがってねえから安心あんしんしろ、アイス。こいつがおんなれってことにかんしては、ちょっとおどろいたんだけどな」

「やっぱりわたしのことはってるんですねー」

「ツラだけはな。で? こりゃ一体いったいどういうことだ? ちびっこいおんなこのみなのはむかしからってるぜ」

「それは勘違かんちがいだ、ケイミィ。おれ小柄こがらおんなきというわけでも、ない。きらいでもないが」

うねえ」

「なんだ? つまり貴様きさまは、おれでもある軍曹殿ぐんそうどのいにして、そういうことをっているんだろう? それはあれか、軍曹殿ぐんそうどの報告ほうこくしてもいいと――」

 うん、想像そうぞうしたらちょっといやあせてきたな。れば、北上きたかみおれ以上いじょうおよがせている。

「おい、おいルゥイ、おい、ってくれ冗談じょうだんだ、洒落しゃれだよこんなのは。まさかおれが、ははは、本気ほんきっているとでも? なんだよルゥイ、どうした、なんのはなしだったかわすれちまったよ」

「……まあ、報告ほうこくなんぞせんが」

「あれですねー、兎仔とこちゃんの場合ばあい報告ほうこく時点じてんでまずりますよねー、報告ほうこくしたひとを」

「いやなにってるのかすらおれにはわかんねえよ。――で? 本当ほんとうにどうした? ナナネでのけんってるし、もうわっただろ」

っているのか。ハコはらないとっていたが?」

「そりゃハコさんの気遣きづかいだろ。話題わだいにしていいのかどうか、おまえはなすかさぐってみたんじゃね? いらん気遣きづかいだとはおもうんだけどなあ」

「だったらそれは、おれじゃなくて天来てんらいへの気遣きづかいだろう」

「ああ、それもそうか。っと、わるい。おれ北上きたかみ響生ひびきだ。おいルゥイ、おまえもいい加減かげんおぼえろよ」

わたし天来てんらい穂乃花ほのかです」

おれはルイ・不知火しらぬいだ」

ってるよ。……ん? 不知火しらぬい? 帰化きかしたのか」

らないじゃないか。おれはなんとばれようともにしないから、おまえにするなよ、ケイミィ」

にするっての。おんなみてえなばれかたしゃくだ。それで? 本当ほんとう顔見かおみせだけか?」

「ああ、旅行りょこうのついでだ。軍曹殿ぐんそうどの温泉おんせんさそわれてな。ついでに、そう、ケイミィには構築こうちく手配てはいたのもうとおもってな」

「そっちの業者ぎょうしゃか。オーケイ、連絡先れんらくさき寄越よこせ。ランクは?」

「ランクBくらいの精度せいどかまわない」

諒解りょうかい五日いつかくらい寄越よこせよ、やっといてやる。場所ばしょ指定していはあるか?」

「〝業者ぎょうしゃ〟にまかせる」

「あいよ。あー……領収書りょうしゅうしょまわすのも、兎仔とこさん経由けいゆしとくか?」

「おまえがそうわれているのならば、そうすればいい」

 携帯端末けいたいたんまつ提示ていじして連絡先れんらくさきわたしておけば、それでわりだ。

「ん。あー天来てんらいだったか、どうなんだナナネは」

いた田舎いなかですよー。いま夏休なつやすみということもあって、あそびにひとたちもいますが、普段ふだんはそうでもありませんし」

「そういうことじゃねえんだけどな。調しらべてねえのか?」

わたしが、ですか……? なかはいって情報じょうほう以上いじょうに、必要ひつようなものはありませんでしたし」

「そんなもんか。だったら上手うまくやってるんだろうけど――ルゥイ」

「そのくちぶりからして、一通ひととおりは調しらべたらしいな」

「いや、おまえあそんだボードあったろ? あれ、ナナネが認可にんかされてるってんで、ハコさんと一緒いっしょこうかなとおもったんだよ。んでも、前崎まえざき管轄かんかつだろ、あそこ。そのうえで、結構けっこうかずもと自衛官じえいかんあつまってるし――俯瞰ふかんすりゃ孤児こじまちだ。面倒めんどうこすつもりは毛頭もうとうないし、こっちも退役たいえきしてしばらくつ。けどなあ」

「まあ、そうだろうな。前崎まえざき管轄かんかつというより、ひとつの領域りょういきなのだろう。かこいをつくるあたり、すさまじいともおもうが、それをたせている手腕しゅわんまでは、なかはいってもえてこない。ただ、おれ配属はいぞくされた、天来てんらいりょうは、まちからややはなれているからな、ぎりぎり範囲内はんいないだろうが影響力えいきょうりょくそのものは……」

「まあそこらに不安ふあん要素ようそはないんだろうな。前崎まえざきおれらは、そもそも本質ほんしつちがうし、うえ納得なっとくしてるんなら、おれたちが前面ぜんめんって交渉こうしょうするわけでもない。ちかづきたいとはおもわないけどな」

「……? 危険視きけんしをしているんですか?」

危険視きけんしっつーか……ま、最悪さいあく状況じょうきょうかんがえてるな。排斥はいせきされるだけならまだしも、なにかがころがって〝てき〟になっちまったら、すくない。組織そしき解体かいたいされたとはいえ、現状げんじょうってものへの理解りかいふかめようとしちまうのが、おれいぬさ。だからまあ……前崎まえざき交渉こうしょうをするまえに、たぶん、だれかがはいってんだろうなとはおもう。そこんとこどうだ、ルゥイ」

「〝かっこう〟の気配けはいがあった」

「マジか……そこまで徹底てっていした調査ちょうさってのも、なんつーかわねえな、おい。それがおまえのためってんならわらうところだ――けどまあ、天来てんらいもいるしなあ。そっちはもうながいのか?」

二年にねんくらいですよ」

「ああそうか、百足むかであたまだいわってから、ぐん手足てあしになっちまって、そこから解体かいたい作業さぎょうだったか……」

「おくわしいですね」

「ルゥイだってこんくらいは調しらべてるさ。ただ、はなしてはないだろうけど」

「さすがにそんなことを、ぺらぺらとはなしはしない」

「ま、上手うまくやってんならおれからうことはねえよ。おれもやってるしな」

「ハコとも上手うまくやっているのか?」

「やってるさ。便所べんじょかみがなくなったときつけば、すで用意よういされているくらいのいだ」

わたしてくれるかどうかは別問題べつもんだい、か……」

「ああ……」

「どういう関係かんけいですかそれ」

上手うまくやってるってことだよ。天来てんらい、こいつはおんなにゃあまいだろ? アタックを仕掛しかけりゃれるから、そこまでえればハッピーだ」

「えっと……どうこたえればいんでしょう、これ」

「いやそのままれよ。もっとも、そのがあるならってはなしだ。さあって、あんまり邪魔じゃましても仕方しかたないだろ? おれはそろそろくぜ」

「ああ。といっても、これからものをして、温泉おんせん旅館りょかんまでくだけだ」

温泉おんせん旅館りょかんねえ……久我山くがやまんところか。あそこはちが意味いみ魔窟まくつだが、まあにせずたのしめよ。じゃ、また連絡れんらくする」

「ああ」

「もしナナネへることがあったら、うちのりょうかおせてくださいね」

諒解りょうかい

 なんというか、おもいのほかはや用事ようじ片付かたづいてしまったな。まあいい、どうせおんなものながいんだ、時間じかんはいくらあってもらんくらいだろう。

 なんにせよ、温泉おんせんというのははじめてであるし、たのしみなのもたしかなのだ。――天来てんらいたのしませることはできんおれだが、まあ、……なんとかなるか。


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