07/25/08:30――仕事の頼み

 その夏休なつやすみにはいっていたこともあり、おれあさから寮生りょうせいそとるなとつたえ、きて連中れんちゅう一緒いっしょにリビングでおちゃんでいた。

 どうしてと、そうわれたが、説明せつめいあとだとっておき、雑談ざつだん時間じかんつぶす。とはいえ、残念ざんねんながら金代かなしろ桜庭さくらば早朝そうちょうから学校がっこうかってしまったのだが、じつのところそれはっている。っていて放置ほうちした。あの二人ふたりならば問題もんだいないとの判断はんだんであるし、問題もんだいがあったところで金代かなしろ学校がっこうかっただろう。あれでも教員きょういんなのだ、それなりに仕事しごとがあるはずだから。

「――ん? おいルイ」

「どうしたけい便所べんじょか?」

「ちげーし。じゃなく、携帯端末けいたいたんまつ通信つうしんエラーてるんだけど、おまえのどうよ」

「エロサイトの閲覧えつらん途中とちゅう不満ふまんなのはわかるが――」

てねえし! おいちょっと津乗つのり、なにドンきしてんだよ! てねえっての!」

「いやけい先輩せんぱい、そういうの部屋へや一人ひとりでこっそりやってて。マジで。……あ、でもわたしほうもだ」

通信つうしん障害しょうがいだろう、よくあるはなしだ」

 それほどむずかしい技術ぎじゅつでもない。もっとも範囲はんい比例ひれいしてむずかしくはなるのだが、既存きぞんのレベルであったところで、このまちひとつをおおうくらいは制作せいさくされている。もっとも、ぎゃくみちもあるのだが。

 さて、随分ずいぶんとのんびりしているなとおもったころ平時へいじではないかおのカゴメがりてきた。こちらに一瞥いちべつげると、まよわず玄関げんかんほうかったので、おれこえをかける。

「おいカゴメ、どこへく」

「――、どこへこうとわたし勝手かってだ」

「そのとおりだな、なにひとつとして文句もんくはない。だったらめるのもおれ勝手かってだ。自殺じさつ勝手かってだが、おれらないところでやれ」

「……」

「――おい」

 すでがっていたおれは、リビングからようとするカゴメのうでつかむ。

はなせ!」

「いいからけ」

貴様きさまなにがわかる! はなせ、わたしかねばならんのだ!」

「はあ……ったく――」

 まったく、そん役回やくまわりである。

 右手みぎはなし、そのまま襟首えりくびつかむと、強引ごういんかせ、ひたいうほどちかくにまでかおせた。


けとっているだろうカゴメ・風祭かざまつり!」

「――っ」


 しん、とリビングがしずまりかえる。意志いしめた言葉ことばだ、そのくらいの影響えいきょうはあろう。

「それとも、このままキスでもしろと、そういう催促さいそくか?」

「……、――はなせ」

いたか?」

「ああ、いた。わかったから、はなせ」

「だったら、まずは椅子いすすわれ。おい天来てんらい! 珈琲コーヒーでもれてやれ。状況じょうきょうもわからず、そうかもしれない――なんて情報じょうほう欠片かけら片手かたてに、自殺志願者じさつしがんしゃでももっとマシともおもえるような特攻とっこうを、どうにかやめたおんな休憩きゅうけいするそうだ」

「……貴様きさまわたしおこらせたいのか?」

事実じじつだろう、馬鹿ばかが。いちいちおれ怒鳴どなられんときもしないおんなだと自覚じかくしろ」

「ふん」

「つーか、そっちの事情じじょうもさっぱりだ」

「あーうん、というか、本当ほんとうになんなのルイ先輩せんぱいわたしあなをあけたいの?」

おれだって全部ぜんぶっているわけじゃない。まあいい、とりあえずは状況じょうきょう確認かくにんだ。まずは――」

 まずは、どうしてこいつらに外出がいしゅつきんじたのか、その理由りゆうはなそうとおもったら、携帯端末けいたいたんまつおとてた。

「へ? おい……こっちの、相変あいかわらず通信つうしんエラーなんだけど?」

「ちょっとってろ。おいけい、そこの馬鹿ばかおんなようとしたら無理むりにでもめろよ」

はらってまで、そとにはない。いているとも」

ってろ」

 ポケットからした携帯端末けいたいたんまつ表示ひょうじされている番号ばんごうて、おれかるせ、インカムをして装着そうちゃくしつつ、リビングにあるはしらあずけた。

 六三○七ロクサンマルナナ

 その番号ばんごう表示ひょうじされる相手あいては、すくない。

おれだ」

わたしだ。挨拶あいさつもそこそこに、すこたのみたいことができてな』

「すぐに本題ほんだいとは、めずらしいな」

『そうやっておまえこまらせるのも面白おもしろいがな。そこには貴様きさま身内みうちもいるんだろう? 説明せつめい手間てまはぶいてやる。だまらせてスピーカーをれてかせろ』

 ――まったく。

 このひとは、彼女かのじょは、おれ上官じょうかんは、いつだってわらないからこまるのだ。

「おまえら、ちょっとだまってはなしいてろ」

 ためいきとしたおれは、インカムをそのままに、携帯端末けいたいたんまつをテーブルのうえいた。こえはインカムがひろうので、はなしていてもいのだが――ちらりと、天来てんらいがこちらへるのを確認かくにんしておく。

「――それで?」

状況じょうきょうはどこまで理解りかいしている?』

今朝けさがた、五人ごにんりジープが五台ごだい学校がっこう方面ほうめんかったのを確認かくにんして、寮生りょうせい足止あしどめをしている最中さいちゅうだ。うちの組織そしき使つかってた新式しんしきだったからな……ねんのためってところか」

慎重しんちょうさをうしなっていないことはめてやろう。組織関連そしきかんれん面倒めんどうごとをけていてな。そちらに狩人ハンターかわせた、到着とうちゃくまではおお見積みつもっても九十分きゅうじゅっぷんといったところか』

「なるほど? おれはそれをてばいいわけか」

 軍人ぐんじんよりも性質せいしつわるいとされる狩人ハンターは、いわゆる依頼いらいにんであり、なんでもだ。ねん一度いちどある試験しけんには受験者じゅけんしゃが――日本にっぽんだとせいぜい五千人ごせんにんくらいだといたおぼえもあるが、合格者ごうかくしゃおおくて五人ごにん依頼いらい代行者だいこうしゃとして基本的きほんてきには単独たんどくとしてうごかれらには銃器じゅうき所持しょじみとめられているし、戦闘専門せんとうせんもんともなれば、おれよりもよっぽどうで経験けいけんもある。ただし、軍人ぐんじんではないので、くにのためにうごくことはきんじられているため、てきになったことはない。

空港くうこう受付うけつけ転職てんしょくしたのならば、それもいかもしれんな。本来ほんらいならばわたしかう予定よていだったのだが、みのあみにかかったのは、そちらだけではなくてな。別件べっけん行動中こうどうちゅう、まあこちらはすぐにわって、そちらへくが、いかんせん九十分きゅうじゅっぷん以内いないには到着とうちゃくできん』

 みみませば、わずかに銃声じゅうせいこえてきている。わって、なんて気楽きらくうこのおんなは、いま作戦さくせん行動中こうどうちゅうであるのにもかかわらず、こうして呑気のんき電話でんわ連絡れんらくなどしてきたのだ。


『――仕事しごとだ、六三○七ロクサンマルナナ

「イエス、マァム」


 おれみじか返事へんじともに、階段かいだんをのぼって自室じしつかう。

情報じょうほうは?」

『こちらで確認かくにんしているだけで十七名じゅうななめい。おまえ確認かくにん情報じょうほうでは、学校がっこうかったということは、拠点きょてんとして間借まがりしてやすむつもりだろう。そのあいだに、つぎ移動いどう場所ばしょさがすはずだ』

おれたんだ、あんたは学校がっこう情報じょうほう仕入しいれているんだろう? あのたぬきがいるのに、トラブルがきるとでも?」

っただろう、これはわたし仕事しごとだ。狩人ハンター前崎まえざきなんぞの部外者ぶがいしゃ解決かいけつされたのでは、問題もんだいがある』

「なんの問題もんだいがあるんだ」

『――貴様きさまら、わたし部下ぶか役立やくたたずだと証明しょうめいされることを、このわたしこのむとでも?』

失言しつげんだった、わすれてくれ。ぎゃく立場たちばなら、とっくにうごいている」

『だからこその〝忠犬ちゅうけん〟だ』

 自室じしつもどったおれは、クローゼットのなかにある、一番いちばんおおきなケースをして、六三○七ロクサンマルナナ番号ばんごう指紋しもん認証にんしょうでケースをひらいた。

詳細しょうさいは、そちらの寮母りょうぼにでもけばわかる』

「あのクソ女狐めぎつねにか? おれいぬであることも見抜みぬけなかった間抜まぬけがやくつのかよ」

『あれでも二○一ファースト百足むかであたまをしていたんだ。そうってやるな』

「うちの組織そしき電子でんし戦闘せんとう専門せんもん部隊ぶたいだったのか……道理どうりで、あんな間抜まぬけでもしりみがいていられるような部隊ぶたいだ、組織そしき解体かいたい一緒いっしょつぶされて当然とうぜんだな」

いぬ特殊とくしゅぎるだけだ。うちだけだぞ、三桁さんけた四桁よんけた関係かんけいなく現場げんば投入とうにゅうされるのは』

「あんたの仕事しごとうばったことはない」

『そうとも。わたしにしかできん仕事しごとは、わたしがやる。だが、わたしにもできる仕事しごとならば、貴様きさまらがかたづける。忠犬ちゅうけんとはれだ。しかし、となりにはだれもいない。えないつながりだけが、わたし貴様きさま関係かんけいだろう』

「ああ」

 そのとおりだとうなずいて、おれふくぐと、ケースのなかにあったボディスーツへと着替きがえ、そのうえからジャケットを羽織はおる。そして。

 愛用あいよう狙撃銃ライフルてた。

たしかおまえは338ラプアだったな。いくつある?』

保持ほじ弾薬だんやく二十発にじゅっぱつだ。45ACPは十一発じゅういっぱつ

わったら補給ほきゅうしてやる。――ああ情報じょうほうがきたな。そちらへかった十七名じゅうななめいは、もとハヤブサの残党ざんとうだ』

「おい……おなりょうに、エリートちゃんがいるのもってるんだろう」

『ああ、あれもハヤブサだったな、四○八ヨンマルハチか。同僚どうりょうかどうかはらんが、そっちにいるほうはきちんとえんっているので、なに問題もんだいはない。もっとも? どちらがえんったのかは、貴様きさま問題もんだいだが?』

 カゴメがったのか、それともカゴメがられたのか――ふん。

面倒めんどうだな……」

『なんだ貴様きさま、まだおんなあまいのはなおっていないのか?』

病気びょうきみたいにうな」

『ははは! おんなころしたくないときついてたころがなつかしいな!』

全員ぜんいんいているからって、余計よけいなことをうな。きついていない、後味あとあじわるいとっただけだ。それに仕事しごとなら、ちゃんとやる」

『そうだな。生死せいしわないが、一応いちおう学校がっこうという場所ばしょだ。あまりめるのもわるいだろう』

夏休なつやすみだから生徒せいとはほとんどいない」

判断はんだんまかせる。あと片付かたづけは後続こうぞく狩人ハンターまかせておけ』

 狙撃銃ライフルかたげ、腰裏こしうらのホルスターに拳銃けんじゅう。そして右側みぎがわこしには海兵隊かいへいたいのナイフを装備そうびしたおれは、部屋へやた。

「それはいいとしても、事情じじょうは?」

簡単かんたん説明せつめいするが、うちの組織そしき使つかっていた身体しんたい活性薬かっせいやくがあったろう』

「ブースタードラッグか? うち使つかっていなかったはずだ」

『あんなものにたよ二流にりゅうは、うちにはいない。だがぐんけはくてな、利権りけんあらそってゴタついている。それが理由りゆうだ。うばってげたのが今回こんかい連中れんちゅうだ。一部いちぶではあるが』

「それで、あんたの仕事しごとは、その後始末あとしまつか」

そん役回やくまわりだろう?』

同情どうじょうはしない」

結果けっかしめせば文句もんくはないとも。――すまんな、のんびりしていたところだろう?』

おれは」

 リビングへ、もどる。全員ぜんいん視線しせんける。

「――どうあってもいぬだ。忠犬ちゅうけんとは、そういうものだとおしえてくれたのは、あんただろう、六○一ファースト

『そうだ。わたしたち忠犬ちゅうけんには、スイッチなど必要ひつようない。どのようにごしていようとも、そのままで戦場せんじょうられる。そして、かなら生還せいかんしなくてはならない。結果けっかせ、成果せいかなんぞいらん。無理むりなら成長せいちょうしろ、あたま使つかってかんがえろ。失敗しっぱいゆるす。だがゆるさん』

「わかっている」

『もっとも、今回こんかいたのみなんぞ、貴様きさまいままでやってきた〝標準ノーマル〟の仕事しごとだ。難易度なんいどひくい。欠伸あくびをしながら片付かたづけろ。わったらまた、のんびりするもと生活せいかつがやってくる。ハッピーか?』

文句もんく全部ぜんぶ、あんたがときに、全部ぜんぶわらせたあとつたえる」

『ははは! そうでなくてはな、ルイ。――ではたのんだ』

たのまれた」

 そうして、電話でんわわり、おれはゆっくりとテーブルにちかづいて、携帯端末けいたいたんまつ回収かいしゅうした。

事情じじょう以上いじょうだ」

「あいよ」

「……気楽きらくだな、けいおれ苦労くろうすこしは理解りかいしてくれ」

らないのか? ここにて、もと軍人ぐんじんっていう連中れんちゅうくちそろえてうんだよ。なんにせよ、それが戦場せんじょうだとおもったのなら、絶対ぜったいちかづくな。ぬならおれたちがさきだ――ってな」

「なるほどな。おれはそのほうらくだから、それでいい。おいクソ女狐めぎつね情報じょうほう寄越よこせ。かりにも百足むかでのファーストだったというのならば、それを証明しょうめいしてせろ。どうなんだ?」

ひどものいですねえ。十七名じゅうななめい確認かくにんしてますし、学校がっこう滞在中たいざいちゅうまではっています。ただ、さすがに配置はいちまではわかりません」

「……っていいのかどうかまよったが、役立やくたたずだな貴様きさま

本当ほんとうはそれ一切いっさいまよってませんよね!」

何故なぜわかる⁉」

「わかります!」

「――本当ほんとうなのか。ハヤブサが……四○ヨンマルかかわっている、というのは」

「それを確認かくにんしてどうするつもりだ? おまえみたいな間抜まぬけが、つばさもない現状げんじょうで、どうにかするとでも?」

「……――ルイ」

「なんだ」

たのむ。せめて、……見届みとどけさせてくれないか」

譲歩案じょうほあんか? おれとしては御免ごめんだ、足手あしでまといがえてよろこ馬鹿ばかはいない」

「――」

「だが、まあ、感情かんじょうはわかる。おれ指示しじしたがうというのならば、ついてい。だがいのち保証ほしょうはしない」

「ああ、それでいい」

「――馬鹿ばかが。〝いのち保証ほしょう〟という言葉ことば意味合いみあいを、きちんとかんがえろクソ空軍くうぐん。イリノイのスコット空軍くうぐん基地きちで、輸送ゆそう補給ほきゅうしか仕事しごとがないから、そういう間抜まぬけなこたえがる。まあいい……ってくる」

「――あの! ルイ先輩せんぱい!」

「どうした、津乗つのり

「あの……かえってくるんだよね?」

 我慢がまんがあった。

 そして、くやしさと、――かなしみがえるかおだ。

当然とうぜんだ。っていただろう? おれにとっては、戦場せんじょうも、いままでここでごしていた時間じかんも、おなじだ。学校がっこうってもどってくる、夏休なつやすまえはいつもやっていた。だが今回こんかい多少たしょうつかれることだろう、たまにはおまえがドーナツをつくっておいてくれ」

「――、……はは、わらないなあ、先輩せんぱいは」

おれおれだ」


 でなくては、ならんのだ。


 そとおれはぐるりと周囲しゅうい見渡みわたしてから、あしすすめる。制限せいげん時間じかんはありあまっているくらいだ、はしって現場げんばかう必要ひつようもない。

「おい、ボードを使つかえばいいだろう」

「おもちゃを現場げんばむな馬鹿ばか。――道具どうぐになりがれば、普段ふだんあそべなくなるぞ」

「それは……そうかも、しれないが」

いそ旅路たびじじゃない、いいからついてい。おまえにはなに期待きたいしちゃいない、せいぜい状況じょうきょう把握はあくつとめろ間抜まぬけ。これはおれ仕事しごとだ」

十七名じゅうななめいだとわかってはいるが、それだけだ。武装ぶそうも、もとハヤブサのだれかすらわかっていない。学校がっこうにいる理由りゆうだとて曖昧あいまいなものだ」

おれあたえられた仕事しごと全員ぜんいんころすか、後続こうぞく回収車かいしゅうしゃるまで足止あしどめをして無力化むりょくかすることだ。これ以上いじょうのぞんでどうする」

「おまえはこんな仕事しごとつづけてたのか」

二年にねんぐらいは、そうだ。一ヶ月いっかげつ二度にどのペースでも、たかだか五十ごじゅうくらいなものでしかない。いいか、おれそばからはなれるな。おれ言葉ことばけ。邪魔じゃまをするな。えないようなら、まずはおまえあしってから、かたづけをはじめる。いいな?」

「……ああ」

そらんでる連中れんちゅう呑気のんきでいいな、現場げんばのイロハをらなくとも、操縦そうじゅうさえできりゃ充分じゅうぶんか。そもそもハヤブサの内部ないぶはどうなっているんだ?」

基本的きほんてきには三桁さんけた状況じょうきょう指示しじ四桁よんけた実働じつどうだ。貴様きさまとおり、世界せかい情勢じょうせいそのものも理由りゆうにはなるが、あぶら輸送ゆそう空爆くうばく支援しえん基本きほんとなっていた」

「つまりおまえは、命令めいれいがわだってことか。道理どうりでエリートくさいわけだ」

わたしだとて操縦そうじゅうくらいはできる!」

「できるからなんだ? そんなたりまえのことをうから、間抜まぬけとわれるんだ。それしかできんヤツの苦労くろうらんし――できないことを、やれとわれるヤツに親身しんみになることもない」

「くっ……だったら、忠犬ちゅうけんはどうなんだ?」

おれたちは戦場せんじょうかういち単位たんいこまだ。仕事しごともらったおぼえはあるが、命令めいれいけたことはないし、したおぼえもない。完全かんぜん実力じつりょく主義しゅぎで、ナンバーなんぞ関係かんけいない。あるとすればトップの六○一ファーストと、四桁よんけたのトップである六○○九ロクマルマルキュウだけだ」

「なんだと? 階級かいきゅう関係かんけいなしで同列どうれつ? そんな部隊ぶたいがまとまるはずがないだろう!」

「だから馬鹿ばかだと、おれ再三さいさんっているだろうが……わからないか? 想像そうぞうしろ間抜まぬけ。全員ぜんいん一列いちれつ平等びょうどうだということは、それは、となり野郎やろうげられた仕事しごとが、おれにもおなじくまわってくるということだ。ともすりゃ、おれ行動こうどう六○一ファーストおなじになることだってある」

「――」

 同列どうれつあつかわれる、平等びょうどうであるなんてことは、それだけ〝過酷かこく〟だ。おなじことを要求ようきゅうされ、その成果せいかさなくてはならない。

「だからおれたちは一単位いちたんいだ。個人こじんとして、そこにる。部下ぶかもいない、上司じょうし組織そしきのトップだ。上官じょうかん二人ふたりだけ――だったら? やるしかないだろうが。どんな仕事しごとでも、めてげるなんて選択肢せんたくしはない。だれかにけることもない。現場げんばるのはつねおれだ。おれおれでしかない。おれ以外いがい仕事しごとげるのなら――」


 それは。


「――おれなんていらないという証明しょうめいじゃないのか?」


 だから。

 おれはさんざん、カゴメのことを間抜まぬあつかいしてきたのだ。気付きづけと、そうおもいながら。

 おまえ現場げんばなど、ほんのうわべにぎず、戦場せんじょうればすぐぬような間抜まぬけだから、めろと。

 まあおれ性格せいかくわるいのもあって、つうじていないのは承知しょうちしていたし、だからこそイラつくのだ。

 そんなクソおんなだろうが、なんだろうが、――おれ範囲はんいなれたくはない。

「ルイ、おまえは……」

海兵隊かいへいたいからのきだ、おまえよりゃよっぽど戦場せんじょうってる。仲間なかまにもれてきた。そのおれがこうっている――こいつはらく仕事しごとだ、とな。電話でんわでもっていたが、標準ひょうじゅん仕事しごとだ。おまえ馬鹿ばかをしなけりゃ、すぐにかたづけられる」

「……わたしは、いらないと、そうっているのか」

「ようやく理解りかいできたようで、おれうれしいな。そして、――それがどれほどくやしいのかも、おれっている。カゴメ、これでようやくスタートラインだ。せいぜいあたま使つかえ」

 もっとも、退役たいえきしたにとってはこくものいになるだろうが――しかし。

退役たいえきしたのなら、ぐんであったことをわすれて馴染なじめ。その努力どりょくもしない中途ちゅうと半端はんぱおんなだから、間抜まぬけとわれるんだ、クソッタレ」

 胸元むなもと勲章くんしょうせびらかすなら、かがみにでもかってやってりゃいい。

「どうしておまえは――そうして、いられるんだ……?」

「……さあな」

 どうもこうもない。


 ――でもしなければ、おれは、きていけないだけだ。


 まち到着とうちゃくしたが、雰囲気ふんいきはそうわっていない。だが、あまり人通ひとどおりはなく、商店しょうてんいているが、ただいているだけ、といったかんじだ。

「ん? おう、どうしたルイ、なぐみか?」

 茶葉屋ちゃばやのおやじがおれづき、こえをかけてきたので、一度いちどまった。

てのとおりだ。安心あんしんしろ、こっちに被害ひがいはないし、すぐかたづける。どうやら後始末あとしまつ完璧かんぺきだとおもっていたのは、間抜まぬけな部署ぶしょだけだったらしくてな。のんびり生活せいかつおくってたおれも、仕方しかたないとこうやっておもあしきずっているわけだ」

銃声じゅうせい緊張きんちょうするんだけどなあ、仕方しかたがねえか。念押ねんおしだ、こっちに被害ひがいすなよ」

あしあらって退屈たいくつしてるロートルのりようなんざ、最初ハナからおもっちゃいない。一般人いっぱんじんむようなクソ連中れんちゅうなら、もっと手早てばやませるさ。そういえば、あんたのところは三階さんかいてなんだな」

茶葉ちゃば保管ほかん地下ちかよりも環境かんきょういからな。一番いちばんうえ保管ほかんなか住居じゅうきょだ」

屋根やねりるが、いいな?」

「おいおい、どういう冗談じょうだんだ。こっからだと最低さいていでも千五百せんごひゃくヤードはあるだろ」

おれにとって千五百せんごひゃくなら、おんなむねをもみながらでもてられる」

 一度いちど横側よこがわまわり、足場あしば三ヵ所さんかしょかるって跳躍ちょうやくしたおれは、上空じょうくう一回転いっかいてんするようにしてあしから屋根やね着地ちゃくちする。つかんでもかったのだが、そのほう屋根やねこわしやすいのは経験上けいけんじょうっていた。

 げていた狙撃銃ライフルにして、屋根やねころがる。こんな陽光ようこうたか時間じかんうごいてくれてたすかるな、なんておもいながらキャップをはずし、照準器スコープのぞんだ。まずやるべきは、ねらいをつけるのではなく、相手あいて位置いち確認かくにんすることだ。

 照準器スコープしの視界しかい一気いっきくろくなり、それらは無数むすう数字すうじとなって視界しかい情報じょうほうつくげる。狙撃そげきにおけるおれ特性とくせい、つまり術式じゅつしきによる補正ほせいだ。イメージではなく、周辺しゅうへん状況じょうきょうそのものの情報じょうほう投影とうえい、または推測すいそくして、まるでゲーム映像えいぞうのような射線しゃせんのラインを照準器スコープないえがかせるのだ。もちろんそれは、おれにしかえないものである。

 魔術まじゅつ

 特定とくてい術式じゅつしき構成こうせいを、魔力まりょく使つかって具現ぐげんするしき。しかし、おれ自身じしん魔術師まじゅつしだとむねってえるような使つかかたをしていない。

 狙撃そげき補正ほせいをつけるのだとて、厳密げんみつにはおれのう計算けいさんしていることだ。それを照準器スコープしに、いわゆる投影とうえいさせて、視認しにんするのに術式じゅつしき使つかっているが、分類ぶんるいとしてはない世界せかい干渉かんしょうけいばれるもので、つまり、おれなか発現はつげんしている術式じゅつしきぎない。

 この射線しゃせんを、現実げんじつ干渉かんしょうするがい世界せかい干渉かんしょうけい術式じゅつしきとして確立かくりつするのに一年いちねんさらにその射線しゃせん強引ごういん変更へんこうさせ、射線しゃせんとおりに弾丸だんがん移動いどう可能かのうになるまでに、さら一年いちねんようした。けれどそれも、研究けんきゅう成果せいかではあるものの、おれにとってはあくまでも仕事しごと必要ひつようだからと研究けんきゅうしたにぎず、探求たんきゅう結果けっかではないのだから、やはり魔術師まじゅつしとはちがうのだろう。

 使つかえない人間にんげんにとって、魔術まじゅつとは脅威きょういではあるが、それほど特別とくべつなものではない。

 たとえば、真理眼キルサイトばれる魔術品まじゅつひんがある。これはひとみわりとして機能きのうする魔術品まじゅつひんで、特定とくてい物体ぶったい人物じんぶつなどのよわ部分ぶぶん、あるいは破砕点はさいてん見抜みぬひとみだが、これはない世界せかい干渉かんしょうけいのものだ。対峙たいじすれば、所持者しょじしゃ有利ゆうり――と、そうおもわれるが、そうでもない。

 朝霧あさぎりさんにわせれば、所持者しょじしゃえていて、自分じぶんにはえないところで、現実げんじつには、つまり世界法則ルールオブワールド内部ないぶには確実かくじつ存在そんざいしているものであり、だとするのならば、それは〝ある〟のだと定義ていぎできる。それを大前提だいぜんていとして思考しこうすれば、相手あいてねらいもトレースがしやすくなり、対処たいしょ可能かのうだ――と、おれまえで、術式じゅつしき使つかわずに対処たいしょしてせた。

 さらには、あたまたれればぬのだから、そこをまもればいいのだろう、なんてっていたか。さすがにそれは極論きょくろんぎるともおもう。

 おれ術式じゅつしきもそうだ。千五百せんごひゃくヤードさきにいる朝霧あさぎりさんをいくらねらったところで、どのように弾丸だんがんぼうとも、それは障害物しょうがいぶつけ、朝霧あさぎりさんにたる射線しゃせん確保かくほしてのものになる。これも極論きょくろんえば、千五百せんごひゃくどころか、二千にせん以上いじょうはなれれば、弾丸だんがん飛距離ひきょり問題もんだいたることはないし、からだのどこかにたることが前提ぜんていならば、それをさっしてければいいだけのことだと、それもまた、せてくれた。

 ――ん? というかこれは、朝霧あさぎりさんがただのものだってことじゃないのか?

 まあ結局けっきょくのところ、いくら魔術まじゅつばれるものであっても、現実げんじつにおける世界法則ルールオブワールドそのものが改変かいへんできるわけじゃない。そして、ひとつのことしかできないようなら、対策たいさくされただけでなにもできない間抜まぬけになる。だから、基本きほんはそれこそ、はしってあなってめるようなものなのだろうけれど。

 さて。

 こちらがわから、射線しゃせんとお位置いちにいる十四人じゅうよにん確認かくにんしたおれは、一度いちどつむって深呼吸しんこきゅうひとつ。それからいきめて、連続れんぞく射撃しゃげき開始かいしした。

 一発いっぱつてば、から薬莢やっきょう自動じどう排出はいしゅつされ、次弾じだん装填そうてんされるので、タイムラグはそうおおくない。ないが、反動はんどう抑制よくせいがややあまいので、ながしてやらなければならないのが、この狙撃銃ライフル速射そくしゃかない部分ぶぶんなのだろう。もっとも、狙撃そげき速射そくしゃもとめるなんてのは、過酷かこく現場げんば以外いがいにはそうないが。

 二十発にじゅっぱつ使つかり、たったのもまた二十発にじゅっぱつうち五発ごはつ駐車場ちゅうしゃじょうにあったくるまのエンジンをいておいた。

 最後さいご一人ひとり屋内おくないにいた馬鹿ばかあしうでいたが――照準器スコープしに、しっかりとおれていた。

 そばすわり、無抵抗むていこう様子ようす桜庭さくらばが、あろうことかその口元くちもとを、みにえていた。

 ――おれ術式じゅつしきづいたな?

 術式じゅつしきを、そこにふくまれる魔力まりょく察知さっちする、なんてのは魔術師まじゅつしには当然とうぜんのようにおこなえることだ。魔力波動シグナルばれるものは、個人差こじんさがあるけれど、であればこそ、自分じぶんちがうそれを敏感びんかんさっすることは、魔術師まじゅつしにとって必須ひっすともばれるものだ。何故なぜならば、――魔術師まじゅつしだとてあたまばされればぬからだ。自衛じえいのためである。

 おれ場合ばあいは、射線しゃせん沿って弾丸だんがん、その射線しゃせんそのものに術式じゅつしき使つかっている。現実げんじつ干渉かんしょうしている。つまり、桜庭さくらばにとってそれは、術式じゅつしきれるも同然どうぜんのことで――いや。

 せんいことか。タイミングがえば、はなすこともあるだろう。

 もどとき二ヶ所にかしょ足場あしば速度そくどとして、着地ちゃくち間抜まぬがおをしたカゴメと合流ごうりゅうする。

「どうだ?」

射撃しゃげき想定そうていせずに配置はいちされた馬鹿ばか十四名じゅうよんめいあしふうじた。っただろう、簡単かんたん仕事しごとだ。おいおやじ、うるさくしてわるかったな」

「いいさ、とっととわらせてくれ」

「ああ。――くぞ、カゴメ」

「わかった……」

 と、そのまえにと、おれ移動先いどうさきにあるすずのみせはいった。

「いらっしゃ――うおっ、なんか物騒ぶっそうひとがきました! 警察けいさつ!」

電話でんわつながらないだろう……狙撃銃ライフルをここへてかけておく。から薬莢やっきょういていく。さわるなよ、たまはないが整備せいびとき面倒めんどうだ」

「こんな物騒ぶっそうなモン、たのまれてもさわらないっスよ! 金代かなしろ先生せんせい瑞江みずえさんが学校がっこうってるっス。大丈夫だいじょうぶですかね?」

「ああ、問題もんだいはないだろう。まえかたづけてくる」

「はあい。いってらっしゃい。おねえさんもけて」

「……おまえも、随分ずいぶんかる対応たいおうを、するんだな? ルイがこわくないのか?」

「あたしにとって、戦場せんじょうなんてらないものです。かかわりたくもないし、きっとおにいさんも、かかわるなってうんでしょう。だったらあたしは、らないままでいいんです。ろうともしなくていいんです。っておくのは、いつものおにいさんとおねえさんだけで充分じゅうぶんじゃないですか。そんだけのことですよ」

「そう、か」

 おれは、ふんとはなわらってそとる。

 すずの判断はんだん正解せいかいだ。そうでなくてはならんし、そうあるべきだ。だからこそ、カゴメの中途半端ちゅうとはんぱさに、おれはイラつくのだが、まあ、いまはとりあえず放置ほうち方向ほうこうである。

 身軽みがるになったおれは、携帯端末けいたいたんまつのタッチパネルをたたく。

「……? なにをしている?」

通信妨害つうしんぼうがい解除かいじょと、学内がくないシステムへの侵入しんにゅう

「なに? 貴様きさま、そんなこともできるのか?」

「おまえはこんなこともできないのか――といたいが、忠犬ちゅうけんならこれくらい、だれだってやる。やれとわれずとも、おしえをけるのでもなく、できなくては現場げんばでただの役立やくたたずになるからだ。位置いちとしては、まあ、狩人ハンターちかいとわれることもある。連中れんちゅうほどのうではないとおもっているがな」

 すで用意よういしてあったプログラムをいくつかはしらせれば、ハッキングは完了かんりょうする。この事態じたいだ、おれ行動こうどうづいても、学校がっこうがわ無理むりをしないだろう。そうかんがえながら、まちのはずれであしめて、おれ携帯端末けいたいたんまつみみにあてた。

「――警告けいこくする」

 おそらく、おれこえ放送室ほうそうしつから学校がっこう全体ぜんたいながれていることだろう。

忠犬ちゅうけん一人ひとり六三○七ロクサンマルナナ現場げんば介入かいにゅうした。抵抗ていこうするならころす。一般人いっぱんじんせばころす。武装ぶそう放棄ほうきしなければころす。以上いじょうだ、五分ごふんやる」

 おれ手近てぢか自販機じはんきでおちゃふたい、ひとつをカゴメへほうげる。

めよ」

「ああ……なんだろうな。わかってはいるんだが、おまえ本当ほんとうわらないから、ここが現場げんばであることをわすれてしまいそうだ」

「おまえじゅうってるわけじゃない、わすれたままでいろ。おまえじゅうたないかぎり、おれにとっては民間人みんかんじん同様どうように、まも相手あいてだ。そのほうらくでいい」

「……複雑ふくざつだが、な」

もと同僚どうりょうだからか?」

「わかっている。いくら同僚どうりょうであっても、反旗はんきひるがえしたのならば、それはてきだ。そしてきっと、さきにそうしたのは、わたしほうなんだろう」

連中れんちゅうにとっちゃそうかもしれないが、だからといってカゴメがその決断けつだんきずられる理由りゆうにはならない。同僚どうりょうたくなければここにのこれ」

「――いや、いい。そうならばせめて、見送みおくりたい」

きずになるぞ」

「それでも、だ」

「まったく、面倒めんどうおんなだ。もっとも、おまえ同僚どうりょうなんか、おれたちの仲間なかまとはちがって、それほどふかきずながあったわけでも、ないんだろうけどな」

「なんだそれは」

生死せいしともにする時間じかんを、一ヶ月いっかげつつづければ、きずなふかまるとっている――時間じかんだ、ってろ」

 みかけのボトルをけ、おれはのんびりと正面しょうめんからはいる。おれいた正面しょうめんぐち二人ふたり姿すがたはないが、血痕けっこんはあった。屋内おくないまれていれば面倒めんどうだとおもっていると、学校がっこう玄関げんかんからふらりとおんなが――桜庭さくらば姿すがたせた。

「ルイー、駐車場ちゅうしゃじょうかったよー」

「そうか。一応いちおういておくが、してないだろうな?」

わたし? うん、してない。ころしていいのかどうかも、わかんないし」

「それでいい。満足まんぞくしたか?」

「ちょっと不満ふまんだけど、まあいいかなって。じゃあさきかえるね」

「ああ」

「お、おい、それでいいのか?」

「うん? だいじょぶ、平気へいき

勝手かってにさせろ、管轄外かんかつがいだ」

 こんなヤツを相手あいてにするほう面倒めんどうだ――とおもっていると、ヘリのおとこえたので頭上ずじょうあおぐ。

輸送ゆそうヘリか……!」

増援ぞうえんじゃない、むかえの手配てはいだろう――と、おい」

「なんだっ」

 そばにいたカゴメのれば、ヘリから狙撃そげきした銃弾じゅうだん地面じめんあなをあけた。

攻撃こうげき⁉」

け、ただの挨拶あいさつだ」

けなければたっていただろう!」

たらなければ問題もんだいない」

 おれかるり、校庭こうていほうしめす。こっちはこっちで、駐車場ちゅうしゃじょうかって残党ざんとう処理しょりだ。

「――カゴメ、十秒じゅうびょうってからい」

 そうっておれかどがり、駐車場ちゅうしゃじょうかおしながら〝不意ふい〟をねらったであろうナイフの一撃いちげき回避かいひする。みょう手足てあしながいヤツだ、とおもった直後ちょくごにはすでうでの〝内側うちがわ〟へんでおり、いたナイフがのどさっている。どうせ、まわして間合まあいを誤魔化ごまか手合てあいだろうが、内側うちがわひろいというデメリットに気付きづかなかった間抜まぬけだ。

 ばしながらナイフをけば、くるまそばうずくまったものおおく、そのなか拳銃けんじゅうっていた馬鹿ばか一人ひとりあたま二発にはつんでおいた。

 かける言葉ことばはない。

 運動場うんどうじょうがわ着陸ちゃくりくしたヘリから数人すうにんがこちらにるのを確認かくにんし、うしろからきたカゴメに一瞥いちべつげ、片手かたてげる――ん?

「シィーじゃないか」

「よう、ネイ。おまえだったのかよ」

「そっちは回収かいしゅう業者ぎょうしゃ転職てんしょくか? 十七名じゅうななめいだ、かずかぞえられるようになったんだろうな?」

問題もんだいないさ、十七じゅうななまではかぞえられる。それ以降いこうはよくわからねえと、おまえきにくさ」

「おう」

 おたがい、すれちがいざまに背中せなかたたう。カゴメはなにかをおうとしていたが、視線しせんって、おれのところへ合流ごうりゅうした。

いか?」

海兵隊かいへいたいころのな。――狙撃そげきしたおんなは、おまえか」

「ハイ、おつかれさま。狙撃そげき文句もんく朝霧あさぎりっておいて」

「わかっている。どうせあのひとのことだ、狙撃そげきしてけたら自分じぶん部下ぶかだ、とでもわらいながらっていたんだろう?」

たり。ラルよ、狩人ハンター掃除屋そうじやはもうちょいおくれて到着とうちゃくする。こっちの仕事しごとってたすかった」

手柄てがらはいらない、結果けっかだけあればそれでいい。おれ仕事しごとはここまでだ」

人質ひとじちっててこもってたら、屍体したいしかのこらなかったでしょうし、選択せんたくをしたねえ、こいつらも」

二人ふたり屍体したいぶくろだが」

「その程度ていどんだんだからいいじゃない」

「――ラル殿どの、ハンターにとってはこの程度ていど仕事しごとは、らくなものなのか?」

「うん? ――ああ、あんたがハヤブサの……まあそうね、らくかどうかはともかく、よくある仕事しごと回収かいしゅう掃除そうじ手配てはいしとけば、制圧せいあつすればいいだけよ」

「そうなのか……」

わたしはこういうかたをしているだけ。まあこのもそうなんでしょうけど?」

「どうした、ヘリでこっちにとき自分じぶん年齢ねんれいゆびかぞえていたのか、おまえは。子供こどもあつかいとはおそったよ」

「このらずぐち朝霧あさぎりそっくりでいやんなる」

「ラル殿どのかれらはどうなる……?」

狩人ハンター専用せんよう留置りゅうちじょれられて、もうそとることはないんじゃない? まあわたしも、ロクマルの仕事しごと事後じご処理しょりまわされただけだから、くわしくはらないけど」

「……そうか」

同情どうじょうするだけ無駄むだだとおもうけどね。さあって、あとはこっちにまかせていいよ」

最初さいしょからそのつもりだ。つぎにツラをわせるときてきにならないことをいのる」

「そりゃこっちの台詞せりふ。じゃ、おつかれ」

「ああ。校長こうちょうにはひとこえかけておけ」

「はいはい」

 おれは、面倒めんどうなのであのたぬきとはあまりいたくないので、そのまま背中せなかけて学校がっこうた。状況じょうきょう終了しゅうりょうだ――もうカゴメもほうっておいていだろうとおもったが、そのままついてくる。

 まったく。

 貧乏びんぼうくじをくのも、いもるのも、おれにはよくあることだが――面倒めんどうなことにわりはないな。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る