第7話 天使と共に

真のお母さんに連れていかれて、なぜか綺麗な花たちに囲まれた場所でお茶会をすることになってしまった。

「綺麗なお花ですね」

戸惑いながらも、とりあえず頭に浮かんできた感想を言ってみる。

「あら~ありがとう~私が育てたの~」

真のお母さんは、頬に手を当てながら微笑む。

そして唐突に、語り始めた。


「あのね、私…シェルちゃんがあなたを連れてきたのがすごく嬉しいの。シェルちゃんにはね、兄が四人いるの。でね、うちの子たちはみんな優秀でね~。あ、もちろんシェルちゃんもよ?でもね…シェルちゃん、昔からお兄ちゃんたちと自分を比べて、いっつも落ち込んでたの。自分なんてまだまだ、って。全然ダメだって。自己評価が低くてね……。そんなある日、あの子……掟を破って人間界に行っての。それで、帰ってきたら一切弱音を吐かずに鍛錬に励むようになって……。何かあったの?って聞いたら────」


【泣いてたんです。一人で寂しそうに。決して涙は流していませんでした。それでも、とても苦しそうでした。だから母上、僕……強くなります。強くなって、守りたいんです。あの子を────】


それって────前に言ってた。昔、私に会ったことがあるって。


「そう思わせてくれたのが、あなたよ。だからあなたには感謝してるの。シェルちゃんを強くしてくれてありがとう」

「…!私は何も──」

「ううん。あなたのおかげよ。でも残念ね────」

「え……?」


なにも……考えられない。

どうしよう……どうしたらいいの?

急にそんなこと言われても…。

真のお母さんから唐突に言われた言葉は胸に突き刺さったまま。

頭か離れることはなく、整理が追い付かない。

何もかもが追い付かない。

どうしたら………。

でも、うん。そうよね。もしそれが本当なのだとしたら、言わなくちゃ。

ちゃんと……言葉にしなくちゃ……そうじゃないと────。

きっと……一生後悔する────。


一通りの話を終え、真のもとへ戻ろうとする道中に、真とお父さん遭遇する。

言わなきゃ。ちゃんと。これが最後なんだから────。


「ねぇ、真。あなたと出会えてよかったわ。最初は…その、ちょっと鬱陶しかったけど、あなたが私のそばにずっといてくれたから、だから……」

ダメ……やっぱり、無理。

「……?急にどうし──」

「やっぱりイヤ……!!」

私は思わず彼に抱きついてしまった。

「あなたと離れるなんて、絶対にいやっ……。だって、だって私──あなたのこと、好きだから……!だから、行かないで……。お願いだから、私のそばにいてっ……」

涙が溢れてくる。こんなの初めて。

どうしたらいいの?私、全部言っちゃった。

こんな恥ずかしい姿、見せるはずじゃなかった。

ちゃんと、笑顔でお別れしようと思ってたのに……。


彼は私を抱きしめた。

「大丈夫だよ。どこにも行かない。ずっと君のそばにいるよ。君に出会ったあの日から────」

あの日から、君が頭から離れた日はなかった。

君を守りたい。笑顔にしたい。ただその一心で、何もかもがむしゃらに、ただひたすらに頑張った。君にまた会えるその日まで。ただひたすらに、君を守りたかったから。

「君のおかげで、強くなれた。君が僕を支えてくれた。だから今度は僕が支える番。僕はね、一生涯を君に捧げるって、あの日誓ったんだ。だから、どこにも行かないよ」

「……!で、でもっ…天使長になるんじゃ……?」



【シェル、よく戻った】

【はい、父上。……兄上達は?】

【皆、だいぶ苦労しているようでな】

【そうなんですね。兄上達が……】

【シェル、お前が一番最初に戻ってきた。シェル、お前には────】

【父上。僕、天使長にはなりません】

【そうか。シェル、お前ならそう言うと思ったよ。

 ……良き人間と心を通わせたな】

【はい。とても、素敵な──僕の愛する人です】



「じゃあ、天使長には……」

「うん。ならないよ。君のそばにいたいから。というより、母上…!彼女に変なこと言わないでください!」

「あら~私はただシェルちゃんが天使長になっちゃうかも~って話をしただけよ~?」

「すまないな。私の妻は少々いたずら好きでな。君に、嫌な思いをさせてしまった」

「いっいえ……。その、ほっとしました……」

「ははっ、君たちは本当に仲が良いようだな。シェル、誰かのためにあそこまで泣いてくれる者はそういないぞ。大事にしなさい」

「はい。もちろんです」

真……私のそばにいてくれるんだ。

離れ離れに、ならないんだ。

ほっとしたら肩の力が抜けて、倒れそうになる。

「っと、大丈夫?」

「うん……。平気。あなたと離れなくて済むと思ったら、力が抜けちゃって……」



色々落ち着いて、人間界に戻ることになった。

「またいつでも帰ってきてね~待ってるわ~」

「二人とも、幸せにな」

「はい。父上、母上。また来ます」

「色々、ありがとうございました。また、いつか」

真は羽を顕現させ、私をお姫様抱っこし、飛んだ。


彼に抱きしめられるのが、来る時よりも暖かくて心地いい。

彼のそばにいるのが、こんなにも心地よくなるなんて、出会った時は想像もつかなかった。

これからは、この心地よさが続くんだ。

……これが幸せ……なのかな。

自分がこんな気持ちになるなんて……人生何があるか分からないわね。

天使と出会って、こんな気持ちになるなんて……。

でもきっと、あなただから、こんな気持ちになるのね。

これからも、あなたと一緒に────。

ねぇ、天使。

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天使に恋 ぺんなす @feka

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