第5話 全てを包み込む天使

「だったらっ…もっと早く──

 私に会いに来なさいよ…!私の傍にっ、いなさいよ………!」


 こんなこと言ったら…私、嫌われる──。


 そう思った瞬間、思わず顔を伏せてしまった。

 彼のことを直視できなかった。

 でも彼は───


「ごめんね」

 優しく私を抱きしめた。


「なんでっ…」

 彼は私の涙を指で取りながら

「だって、君の言う通りだから。最初に君を見かけたときから、ずっと傍に居ればよかった。そしたら、君を苦しみから解放できたのに」

「……!」

「過去は変えられないけど、これからの未来はずっと一緒だよ。喜びも苦しみも…何もかも全部一緒だよ」

「ほんとに……ほんとにずっと一緒……?」

「うん。ずっと一緒、だよ」

 彼はそう言って私を抱きしめた。


 あれから一週間────。

 今日は、

「君を苦しみから解放する」

 そう言われて、彼について行ってるけど……。

「ねぇ…どこ行くの?」

「ん?もうすぐだよ」

「もうすぐって……。この丘の上に、何の用なの?」

「ん?見晴らしがいいからね。ちょうどいいんだ。

 あ、ほらもうすぐ着くよ」

「ねぇ、なんで丘の上なの?見晴らし必要?」

「うん、必要。広く見渡せる場所がいいんだ。うん!やっぱりここにして正解だった。いい場所だ」

「ねぇ…何する気?」

「昨日言った通りだよ。君を苦しみから解放するって」

 彼はそう言うと光に包まれた。

 そして目の前に現れたのは羽の生えた彼だった。

 その姿は最初に彼が見せてくれた時と同じ。

 真っ白で──純白で──。

 彼が本当に天使だという証明をする存在。

 彼は空へ飛んでいった。彼がどんどん小さくなる。



 よし。やっぱりここはいい場所だ。いい空気が流れてる。

 ここなら、大丈夫。


 光を纏いし天使は闇を打ち払い邪悪な心を浄化する。


「天よ……!生きとし生けるすべての者たちに、光の加護を────」


 彼の周りに光が集まり、世界が光に包まれた。

 目を開けると目の前には、空にいたはずの彼がいた。

「終わったよ。これで、君をいじめてた子達の心は浄化されたはず。もう君が苦しむことはないよ」

「浄化…?」

「誰かを妬んで、傷付けたり苦しめたりするのは、心が闇に囚われている証だからね。全ての生物を浄化した。だから、もう君が苦しむことはないよ。今までの苦しみは僕が全部忘れさせる。これから、楽しいこといっぱいして幸せにするから」

 彼の笑顔を見てると、不思議と今までのことがどうでも良くなった。彼なら私を癒せるかもしれない。そう、思った。

 それと同時に彼が天使であることを思い出した。こんな凄いこと、人間じゃできない。浄化なんて絶対無理。

「あなた、本当に天使だったのね」

「えっ、まだ信じてくれてなかったの…?ひどいなー…最初に羽、見せたのに…」

「ふふっ、ごめんなさい。非現実的すぎて、全然信じてなかった」

 一日が経って、私に嫌がらせをしてた子達から謝られた。

 謝っても許されることじゃないのは本人達も分かってたみたいで一生背負って生きていくって言われた。

 人ってここまで変わるものなんだって思った。この子達が私の何が嫌だったのかは分からないけどそれでも、一生背負って生きていくならそれでいいって思った。それが、人を苦しめることの償いだと私は思う。だから私は、彼女達を許した。罪の意識がきちんとあるならそれでいい。正直どうでもよくなっていたし。彼の傍に居ると、不思議と心が落ち着く。これも天使の力なのかな。

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