第4話 衣装作り
翌日の休日。俺は昼から家を出た。自転車にまたがり、とある公園に向かった。
春の風が心地よく感じる中、ペダルをこぎ、ジャングルジムが目立つ公園へとやってきた。子供たちが遊具で遊んでいる中、一人ベンチに座る女子がいた。
「どうも」
と、俺は声をかけた。
女子は振り返り、笑顔を向けてきた。
「来たわね。じゃあ、早速行きましょう」
女子はベンチから立ち上がり、歩き出した。俺は自転車を押しながら、女子の後についていく。
大通りやら小道を歩き、時には小さな橋を渡り、ライオンが目印のマンションへやってきた。
「自転車はそこの駐輪場に止めておいてね」
と、女子は駐輪場を指さした。
俺は駐輪場にしては広い空間に自転車を止めた。
「早く来て、扉が閉まるわ」
俺は女子に言われるがまま、すたこらさっさと玄関口へと急いだ。これまた広い廊下を渡り、エレベーターに乗る。四階で止まり、女子が下りる。俺もあとに続く。いくつかの扉をスルーして、角よりの扉の前で立ち止まった。表札には、笹上と書かれていた。笹上っていうのか、と一人頷いていると「さあ、入って」と言われた。
笹上に続き、俺も中へと入る。
「お、お邪魔します」
と、ぎこちない俺。
靴を脱ぎ、玄関に近い扉を笹上は開けた。そして、吸い込まれるように中に入っていく。俺もあとに続く。あたりを見渡しながら。
意外にも、と言ったら失礼なのかもしれないが、笹上の部屋は女の子らしい部屋だった。とてもコスプレをしているようには見えない部屋だ。俺が出入り口で口を開けていると、笹上は「お茶でも入れるわね」と部屋を出て行ってしまった。一人取り残される俺。
シンプルな形の机にベッド。本棚にかわいらしいぬいぐるみ。女子の部屋がそこにはあった。人生で初めての女子の部屋。ドキドキである。
そんなドキドキの俺をよそに、笹上はコップを両手に部屋に戻ってきた。
「麦茶しかないけど」
小さなテーブルに笹上は持っていたコップを置いた。
「適当に座って。今、デザインを見せるから」
言われるまま、俺は小さなテーブルの前にちょこんと腰を下ろした。そして麦茶を一口。
笹上は椅子に座り、何やらパソコンを操作し始めた。その間を埋めるように、俺は口を開いた。
「あー......親はいないのか?」
「両親は共働きなの。夜にしか帰ってこないわ」
「そうか」
沈黙が流れる。居たたまれない。
プリンターの起動音がした。ガガガ、と機械音をさせながら、なにかを印刷し始めた。印刷し終わると、笹上は印刷された用紙をテーブルに置いた。
「あなたには、このキャラクターになってもらうわ」
テーブルに置かれたのは、見たことのないキャラクターが印刷された用紙だった。羽織袴に竹刀、メガネが印象に残るキャラクター。
「さっそくだけど、作業に入るわよ」
「作業って?」
「衣装作りよ。コスプレの衣装は、全て手作りしているの」
そう言うと、笹上は立ち上がり、クローゼットへと足を運んだ。そして、がらりと開く。
「これ全部、手作りよ」
クローゼットの中には、色とりどりの洋服がぎっしりと並んでいた。笹上の表情は誇らしげである。
「すごいな......」
俺は純粋に関心した。
「特にお気に入りなのはね、このセーラー服。一見コスプレに見えないけど、嵐野サバイバルっていうゲームに出てくる学校の制服なの。かわいいでしょ?」
興奮気味に笹上が取り出したのは、一見地味なセーラー服だった。どこぞの高等学校の制服だと言われても別に違和感がない。そんな学校があるのか、と納得してしまうレベルのものだった。
「まあな」
「って、こんな自慢している場合じゃなかったわ。まずは型紙を作りましょう」
そう言って、笹上はクローゼットからハトロン紙を取り出した。忙しい奴である。
俺と笹上はコスプレ衣装作りを始めた。
俺、家庭科の授業内容覚えてないぞ。
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