第49話 泣き虫②

先輩はいつものところでしばらく泣いたあと、タバコに火をつけた。


「タバコはやめてください」


僕は思わず声をかけてしまった。


「なんだ一年か。うせろ、あたしに構うな」


「見つかったら停学ですよ」


先輩は舌打ちをすると


「うせろチビ助」


僕は電光石火のビンタ、そして膝蹴を腹に受けて、うッと息を詰まらせてしまう。


「へえ、これで立っていられるのか」


そこでニッコリしたのがムカついたのか


「生意気な奴だ。泣かせてやる」


セイヤッ!


僕を投げ飛ばした。

背中へ激痛、そして全身が痺れてしまった。

やっぱり凄い。


「ああ?おまえなんで笑ってるんだ?」


「こんな綺麗な背負いは誰にも食らったことがありません」


「ち、おまえも柔道やってんのか」


あなたに憧れて始めたんです、とはもちろん言わない。


「柔道なんてヤメちまえ。おまえには才能がない」


「才能はないけど柔道はヤメませんよ」


先輩は一瞬だけ泣きそうな顔を見せてから


セイヤッ!



また僕を投げ飛ばした。

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