時間まで
「す、すごいねユティー。あっ」
「ふん」
スクナの右手首を飾っていたぼろぼろのミサンガが軽く光ると、さっとスパイシーなどこか甘い香りがスクナの鼻をくすぐった。
気後れしてしまって、中に入ったところから一歩も踏み出せていないスクナを、ユティーは鼻で
ローブを脱いで、おそるおそる猫脚のサイドテーブルの上におきながら、天井からさがる白い絹の生地の合間をくぐって。ばふんとベッドに倒れ込む。体中が重い。
「スクナ、靴を脱げ。行儀の悪い」
「うう、でも眠いよユティー」
「馬鹿め。昨日眠れとあれほど言っただろう」
「緊張して眠れなかったんだよぉ」
驚くくらい肌触りのいい掛布団にすり寄りながら言うスクナに、呆れたと言わんばかりにつかれるため息。
ふわふわふかふかとうわ言のように呟くスクナの目は、もうまぶたが落ちかけていた。
「スクナ、靴を」
「はぁい」
布団の誘惑になんとか打ち勝ち、もそもそと靴を脱ぐために身体を起こす。両足の靴を脱いだところで、スクナは再度背中から布団の上に倒れ込んだ。
ぎしっと音がして、ユティーが生地の合間をぬいベッドに腰かけた。それをぼんやりとした頭で見ていたスクナ。眠気からうつろにユティーを見るスクナの頭を撫でながら、ユティーは言った。
「寝ろ。17時まで5時間はある。起こしてやる」
「うー。でも僕が寝たらユティー暇じゃあ」
「ふん。お前に私の暇がつぶせるとは思わんが。……いい、寝ろ。まぶたの落ちかけた顔で何を言うか」
「んー……じゃあユティーも一緒に寝よ?」
「は?」
「おやすみー」
「おい! スクナ」
はっと不遜に笑っていたむしろ嘲笑っていたユティーだったが、左手をスクナに引かれ存外強いそれにベッドに倒されたときはさすがに焦った顔をしていた。
ユティーがいつも被っている軍帽がころりとベッドの上に転がる。そんな苛立ちにスクナを睨みつけるも、へにゃへにゃ笑いながら嬉しそうに「一緒、いっしょ」と呟くスクナに毒気を抜かれてため息をついた。
「おやすみぃ」
「ああ、休め」
そうしてスクナの意識は、深い眠りの中に落ちていった。
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