客室
「あ、あの。自分で荷物!」
「君、これも仕事だ。させてやりたまえ」
「こちらの年増に言われるのは気にくわないのですが、来賓様のもてなしも仕事の範疇でして」
「あ……ありがとうございます」
「おや、どういたしまして」
そんなやりとりをしながら、長く続く石畳の上を歩き始めて20分。途中ですれ違った甲冑姿の騎士たちがスクナ達に気付くと敬礼をとり端によけるのを、軽くお辞儀するスクナと平然としたチナミはルルーの後ろについて城内に入った。
城内も外装と同じで彫刻1つない白い壁に、スクナが10人は並んで歩けそうな広い廊下。その足元唯一の飾りが赤い布地に金で縁どりされた絨毯、時折置かれたガラス灯の廊下が延々と続いていた。壁には等間隔に四角窓があって、そこから入る光が城内を明るく照らしていたが、やはりどこか武骨な印象は拭えなかった。
広い広い城内をスクナ達はルルーについて黙々と歩く。ころころとかすかにスーツケースの転がる音がするだけだった。
やがてたどり着いた重厚な扉の前で、ルルーは立ち止まった。
「こちらがチナミ嬢の部屋でございます」
「ああ、ありがとう。……君、少し部屋で寝たまえ。そうだな、17時になったらスーツに着替えてここに来てくれ」
「はい! チナミ班長」
「それでは次に行きましょう」
チナミにスーツケースと鍵を渡し、ぱたんと中に引っ込んだのを見るとルルーはスクナについてくるように促した。
そこからまた、無言でルルーについて進んでいく。角を右に2回、左に1回曲がったところでだんだん城内の装飾が華美になってきているのに気づいた。
壁には小さな薔薇やアンティーク調の彫りものがされ、ガラス灯にも繊細な模様が描かれ窓も丸く、縁には彫刻がされていた。
そしてチナミの部屋より大きな両開きの扉の前で、ルルーは立ち止まる。
「イクルミ殿の部屋はこちらになります」
「え……」
「何か?」
「い、いえ。ありがとうございます」
スーツケースと鍵を手渡され、スクナはルルーに頭を下げる。と、ルルーは驚いたように目を見開いた後、口元をわずかに和ませると一礼して去っていった。
スクナは華美な廊下をざっと見まわして、自分の後ろにも同様の扉があることに気付いた。先ほどまではルルーに気をとられていてまったく気づかなかった。
「ここも客室なのかな」
答えの返らないことを呟いて、スクナは鍵を使いがちゃりと与えられた客室の鍵を開けた。
案外軽く開いたそれにスーツケースを転がしながら中に入る。扉を閉めて振り向いたスクナの目に飛び込んできたのは。
「うわあ……」
絢爛豪華と言えるような調度品の数々だった。優美な模様の絨毯に赤いカーテン、磨き込まれたマホガニーの猫脚のローテブルに、チェスト、クローゼット。
赤いベルベット張りのソファー、大理石でできていると思われる子猫や花の彫刻が至る所にあり、宝石と考えられる石で飾られた鏡。その横には同じく宝石で飾られた時計。蜜蝋の光るシャンデリア、天井には可憐な薔薇の彫刻、何より白い天蓋付きのベッドが目を引いた。
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