証明

「あら、君。先ほどまで見かけませんでしたがいったいどこに?」

「ずっと首紐の中に居ました」


 声変わりしていない高い声。遊子と距離が開いているためか、少し張り上げて大きくした声は幼かった。

 遊子が不思議そうに首を傾げる。本がまたふよふよと近寄ってきたが、それを手で払いのける仕草を遊子はした。それだけで、本はぽーんと弾き飛ばされて光の波に乗って空中へと戻っていった。遥か高く、天井に出来た本の渦をスクナは見上げる。あれが落ちてきたら痛そうだなぁなんて見当違いの事を考えながら。


「首紐? ああ、彼の。……君、何を言っているのですか?」

「そのままの事です。それよりも、あなたは確証が欲しいのでしょう? ぼくはぼくの存在を持って確証であるといいます」

「何を……」

「ぼくは、スクナお兄さんにしがらみを解いてもらって、元の世界に帰っていったぼくの本体が証明だと言っているのです」


 ふふんと薄い胸を張る少年。その持つ雰囲気はどこか得意げだった。ゆらゆらと9本の尾がそれに呼応するように揺れる。

 スクナはナコトに呼びかけようとしたが、振り向いたチナミに腕を掴まれてそちらを見る。金糸を軽く揺らしながら顔を横に振る仕草をするチナミに、たぶん黙っていろということなのだろうと察してぐっと黙り込む。

 遊子は納得いかないと言わんばかりに半目になり、さらに追及する。


「君の本体が戻れたという確証はないでしょう? それに、君が分身体であるということも証明は出来ない」

「確かに、証拠は出せませんが、感覚なら教えることが出来ます。ぼくの魂はぼく1つぶんしかありません。この世界に来た時点でぼくの魂は5つに分かたれたはずだったのに。それが1つしかない上、ぼくは元の世界にほかの4つの魂を感じます。あなたも、魂の個数くらい遊子ならばわかるでしょう?」

「それは……でも」

「それ以上でも、それ以下でもないんです。ぼくはそれを持って証明とします」

「……」


 きっぱりと言い切ったナコトに、黙りこむ遊子。スクナとチナミにとっては全く分からないが、遊子たちにとって魂の感覚とは十分な証拠、理由になるらしかった。

 悪魔の証明に対して、明確な証拠を示さなければならないのかと内心戦々恐々としていたチナミの肩から、ほっと力が抜ける。

 まだ完全ではないが、少しは納得したように頷いている遊子にスクナもほっと胸をなでおろした。

 遊子が願っているのに、その絶望のせいで、疑心暗鬼のせいで自身の願いをつぶすような結果にはなってほしくなかったから。

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