図書館

 蔵書冊数約三億を誇る、世界最大の図書館。

 

 博物館じみた造りになっているそこは白い石造りの建物で、荘厳なまでに白い柱が左右に4本ずつ立ち並び、そこからはこれまた白い石で出来た階段がつながっていた。

 階段を昇り、柱をくぐった中には、重厚な雰囲気を醸し出す木造の大きな扉が待ち構えでもするかのように迫力たっぷりにあった。扉は重たげだが小鳥や天使、薔薇の花や蔦の模様が彫り込まれていて、それだけでも目を楽しませた。

 その大きな扉を開いたとき、スクナとチナミは目に飛び込んできた光景に固まった。いや、本気で目を疑った。

 スクナに至っては一瞬立ったまま気絶してるんじゃないかと自分を疑った結果、セルフビンタまでかまして。


「君、大丈夫かね……?」

「はい……平気です」


 思ったよりもビンタが強かったらしく、右手ではたいた右頬を押さえながら身もだえしていたスクナにチナミが遠慮気味に声をかける。身体は若干引いていた。

 ふるふると震えながら答えるスクナの頬は羞恥心と痛みに真っ赤になり、瞳は少し潤んでいた。

 とりあえず大丈夫だと言うので、チナミはスクナよりも図書館に目を向ける。四方遥か高く、見上げきれないほどの大きさの白い壁に埋め込まれている本棚で埋め尽くされたそこ。かしこに階段があり本が手に取れるようになっていて、その下には長テーブルと数えるのが億劫になるほど置かれたいくつもの椅子。そこまではチナミや、図書館に来たことのないスクナでも話には聞いていたことだった。


 そこは問題ではない。


 重要なのは、きらきらと図書館内を光が舞っていること。そして、その光に乗せられるようにして本棚や数百にも思える本たちが空中に浮かんでいることだった。

 二度見して、やはり目を開けたまま呆然と固まるスクナ。めまいでも覚えたかのように目元を押さえうつむくチナミ。

 その間も浮遊し続ける本たち。


「チ、チナミ班長。こ、この図書館っていつもこう……何ですか?」

「そんなわけはない。私が以前来たときは普通の図書館だったさ」

「っていうことは」

「十中八九どころか十中十、遊子の仕業だろう」


 それでもこの怪異の中に足を踏み入れた途端。空いていた扉が鈍い音を立てながらぎぃと鳴く。ぱたんと軽い音は反響しながらも、静かな図書館に吸い込まれるように消えていった。

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