道中

 魔法省を出てすぐ左手に見える大きな白い意石造りの建物。それが目指すべき図書館だ。灰色の石畳に舗装された道を、チナミと隣り合って歩く。まだ仕事時間のためかあまり人がいないそこ。

 時々白いシャツとスカートやスラックスなどを基調とした服装の人々とすれ違いながら、まだ田舎から出て来たばかりであまりヒイラギの事を知らないスクナは、そんな普通の町の光景にも目を輝かせていた。


「そんなに珍しいかな?」

「はい、こっちに出て来たばかりでまだスーパーくらいしか行ったことないんです!」

「そうかい、ならこの通りには休日の朝に来ると良い。珍しい香辛料から新鮮な魚や野菜まで安く揃う」

「そうなんですか!?」


 いいことを聞いたと言わんばかりにスクナは軽く歩調を乱す。チナミの方を見ながらありがとうございます! と嬉し気に笑みを見せた。整然と並んだレンガ造りの家を目の端に流しながらにょっきりと生えた看板かけの下をスキップに近い歩調で歩くスクナ。嬉し気な部下の様子にチナミからも思わず笑みが漏れた。

 ふふふっと声を出して笑うと。そんなチナミを見るのは初めてだったスクナはきょとんと目を丸くした後、満面の笑みを浮かべた。

 おやつの時間近いためか、どこからか甘い匂いが漂ってきていて、それが空気を一因となっていたのかもしれない。2人の間に流れる空気は春の午後にふさわしく穏やかだった。そんななか、スクナはチナミに話しかける。


「遊子が占拠ってどういうことですかね?」

「さあな。よくはわからんが、図書館を占拠するあたり比較的知能が高い……というかこちらの話を聞く余裕は持っていそうだな」

「そう、ですね。もしかしたらユティーみたいな人かも」

「やめてくれ」


 太陽の下を歩きながら、朗らかに話していたチナミが立ち止まって言う。ちょっとだけ嫌そうな声だったのはスクナの気のせいだろうか。ローブですっぽりと覆われた小さな身体、唯一見える顔は面倒くさそうに歪められていた。

 首を傾げながらそんなチナミに合わせて足を止めるスクナ。ふと足を止めたことに気づいたチナミが再び足を進め、スクナもそれに倣う。


 しばらく行くと、それは姿を現した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る