占拠

 そうして午後も一般業務。チナミの淹れてくれたアイスティーを嗜みながら、片手で本のページをめくり続ける。


 文字の海を泳いでは、冷たいそれで喉を潤すたびにはっと現実に戻ってくる。からんからんと氷同士が音を立てる涼やかな音が耳に気持ちよかった。

 昼食後ののっとりとした時間。適度に温かい風が吹き込む窓から入る気持ちの良い日差しの中で、本を読む至福。スクナは幸福感にふわりと顔を崩した。

そのとき。


 どおおおおおおん! どおおおおおおおん!


「ひゃっ!」

「おやおや」


 やっぱりなタイミングで鳴ったスマホに、デスクについていたスクナの身体が一瞬跳ねあがる。ぴょんとうさぎのように飛び上がったスクナを見ていたチナミの眼が丸くなる。その様子は幼くて、碧色の瞳がまん丸く見開かれ、幼い外見相応に見えた。……本当の年齢には足元にも及ばないが。

 醜態をさらしたことにうなだれ、耳まで真っ赤になるスクナを後目にチナミが通話画面を押した。


「もしもし、こちらチナミ・テルヌマだが」

「こちら中央管理室です。遊子による図書館の占拠が行われたとの報告があり、至急チナミ班の出動を要請します」

「……図書館の占拠? 遊子がかね?」

「出動してください」

「わかった。向かおう」


 ぴっと無機質な音がして通話が切られる。眉間にしわを寄せ、困惑げに首を傾げながら、切られたスマホを見つめるチナミ。そんなチナミをスクナも不思議そうに見ていた。遊子による図書館の占拠とは一体どういうことなのか。


 しばらくそうしていた2人だったが、チナミはやがて顔をあげると自分を見つめていたスクナに微笑みかけた。


「幸い、図書館はすぐ近くだ。歩いていこうか」

「はい!」


 アデルに乗らなくて済む。もともと三半規管があまり強い方ではないスクナは、それだけで入り口の外套掛けにかけてあったローブを手に取り羽織りながらも気持ちはぐんと上向きになった。

 チナミはそんなスクナの考えが読めたのか、自身もスクナに手渡されたローブを羽織りながら苦笑していたが。


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