略綬について

 チナミは一瞬、弁当屋で買ってきたお気に入りのからあげ弁当の中に入っていたからあげがのどに詰まりそうになった。

右手で弁当の横にキャップを開けて置いておいたお茶で一気に流し込むことで、ようやく一息つく。

 こんな間抜けな死に方はごめんだった。ではなく、もう一度耳を疑った言葉をスクナに聞いてみる。


「その略綬が、なんだって?」

「え?ああ、はい。これが『よくできましたで勲章』で、こっちが『よく食べられましたで勲章』です。ずっと避けてたピーマン食べてくれた時につけたんですよ。自分が縫い付けたんですけどね! それで、これが……」

「指を針で手を穴だらけにしながらな。『お手伝いよくできましたで勲章』だ、スクナ」

「そうそう。洗濯物取り入れるのとたたむの手伝ってくれた時につけたんですよ」

「ぶっ」


 今度はお茶を吹き出しそうになった。今どき子どもでも喜ぶかどうか怪しいものを賞ではなく勲章にまで格上げしている1人と1体に驚きを禁じ得ない。あの氷柱のような冷え切った男がそれを甘受してあまつさえ自慢していることも。

 一方スクナはそんなチナミを不思議そうに、首を傾げてみていた。なにか面白いことでもあったのだろうかと。間違っても自分がその面白いものだなんて思ってもいなかった。

 原因がわかっているユティーは知っていても隠そうとはしなかった。滑稽なことだということはわかっているが、スクナが笑顔で取り付けてくれたものに。なにより、スクナの血が染みこんだものにユティーは否やを言う気はさらさらなかった。むしろ歓迎する。


「チナミ班長?」

「いや、悪いね。何でもない」

「そうだろう。スクナに心配されるようなことをするな小娘」

「ユティー!」


 当然と言わんばかりの顔で顎をひいて、チナミに嘲笑して見せる。この笑顔しか見たことがないからだろうか、端整な顔立ちなのにこれ以外の笑顔をユティーが浮かべているところをチナミには想像できなかったし、似合うとも思えなかった。

 怒っているスクナをいなしながら弁当を食べるユティーに、やはりどこかで見たことがあるんだよなあと思いながら、最後の一欠けらをチナミは口に放り込んだ。

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