プロセス
「さて」
「あ、すみません。チナミ班長」
「いや、いいさ。その気持ちを忘れないようにしたまえ、その心が大切なのだからね。まあ、せっかくだしプロセスについて説明させてくれ」
そう言ってチナミはスクナの前から身をどけると銀の指示棒に戻したそれで、一番上に「問詩」と書かれた四角を指した。似たようなものが「問詩」から2つにわけられ、そこから3つのパターンにわけられている。わかりやすい図だった。
落ち込んでいてメモも取っていなかったスクナはあわててノートに書き写していく。かりかりとノートに取っていく音だけが時計の音以外静かな部屋に響く。やがてそれがとまったころ、腕を組み目を閉じて待っていたチナミは目を開き、口を開けた。
「まず『問詩』だ。ここから遊子が答えるパターンと答えないパターンにわけられる。もしここで答えなかった場合は、無理やり引きずり出す」
「え……そんなことできるんですか?」
「『強制執行』の能力を持つ謎がいてね」
そいつに頼むのさ。と「強制執行」と書かれた四角を指す。かつかつと数度指示棒でそれをたたいて示すように当てながら、美貌をしかめるチナミにスクナは不思議には思ったものの、特に何も言わなかった。
「次に答えた場合だ。そこからさらに謎を解けるか解けないかにわかれる」
正解不正解と描かれた文字を交互にかつかつと音をさせて指示棒で示す。左手であごを触りながら、チナミは続ける。
「正解の場合はここですべてのしがらみが解け、元の世界に返すことが出来る。もしかしたら謎を1つわけてもらえるかもしれないな。しかし」
かつん! と正解よりも強く指示棒を不正解と書かれた四角に当てる。その様子はどこか苛立たし気で、そんなチナミにスクナが掛ける言葉を見つけさせはしなかった。
それくらい、苛立ったように薔薇色の唇に左の指を当て、その白い歯で形の良い爪をかじったところで。はっとしたかのようにスクナを見た。
やっとその存在に気付いたように。わずかに空気を緩めてかじった爪をロリータファッションのリボンとフリルのついた袖に隠すと、チナミはこほんと咳ばらいを1つして改めた。
「不正解の場合は、しがらみが加算され5つぶんの謎を使い切るとしがらみにより完全に変質してしまう。そうなったらもう、自我もなく暴れまわるためしがらみを強制的に取っていくことになる。それはものすごく苦痛を伴うそうだ。そうして、しがらみを取り払ってももう元いた世界には戻れなくなる」
受付の子たちがそうだな、と1つ1つプロセスを描いた四角を指しながら苦々し気にその顔を歪める。
自分の世界に帰れない、それはどれだけ苦しくて悲しいことなんだろう。スクナはペンを持っていない方の手でこぶしを握り、ぎゅっとそれを胸に押し当てた。せめて今が幸せになれるように祈りを込めて。かんだ唇が痛かった。
沈黙となった班室に、遠くの時計塔から昼食の時間を知らせる鐘が鳴る。
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