講義:魔法師とは

「魔法省とはなにか?」

「魔法省は、全魔法師たちを統括する機関で、健康診断時に軽いテストをすることで新たな魔法師の発掘も行っています。魔法省所属の魔法師たちは全員ローブとピンブローチ着用の義務があります。本来は遊子が出た現場に魔法師を派遣するのが主な業務で、魔法省に属していない者は魔法師とは呼びません」

「それでは、魔法師とは何かね?」

「えっと、魔法師とは、謎の力を借りて異世界からやってきてしまった異物・遊子を元のあるべき場所に戻す役目を担う人たちのことです」

「君は確か遊子の声が聞こえたな」

「はい……ええと。たぶん」

「珍しいが魔法師としては非常に使える能力だ。大切にな」

「はい!」

「では、遊子とは?」

「異世界からの異物であり、迷い人です。金色の瞳が特徴的で、たいていはしがらみ……この世界との縁に取り込まれ元の姿をしていることは少ない……です」


 今朝チナミから渡されたばかりの教科書を開きながらの講義。遊子の説明のところでスクナは眉間に眉を寄せ、少し首を傾げて動作をとめる。筆記する手を止めたスクナにチナミが近寄る。ふわりと風がアイボリーのカーテンをはためかせた。


「なにか質問があるかね?」

「あ、はい。あの、ユティーと出会った時なのですが、ユティーは普通に人の形をしていました。黒くもなかったですし」


 驚きに一瞬目を見開いたチナミは、そのままその唇に左手の指をあてた。少しの間考え込むようにそうしていると、やがて答えに思い至ったようにぽんと両手のひらをたたき合わせる。


「例外だな。いくつかの確率でそういう遊子もいるそうだ。教科書にも人の形をしていることは少ないと書いてあるだろう? それだな」

「そうなんですか、ありがとうございます!」

「いや、君の初解の謎に関してはよくわからないことも多いからね。……私は彼をどこかで見たことがあると思ったんだが」


 最後に呟かれた言葉は突如として勢いの強くなった風にばたばたと音を立ててはためいたカーテンでスクナにはよく聞こえなかった。憧憬のまなざしで見てくるスクナに花がほころぶように笑いかけながら、チナミは次の質問にうつる。


「さて、問詩とは何かね?」

「遊子に対して持っている謎を問う行為です。ただし、これで遊子が答えてくれるかどうかはわかりません。」

「正解だ。君は優秀だね」

「いえ、その! 教科書を見ながらですし!」

「それでも、だ。もう少し小難しく載っているだろう? 君の言葉に置き換えて私に伝えると言うことは君がきちんと理解している証拠だ。称賛に値するよ」


 満足げに微笑みながら頷く美しい人に、スクナはあわてて胸の前で両手のひらをふる。ただ教科書を見て答えているだけだといっても、称賛するとすら言われて、嬉しさに耳まで真っ赤になってうつむく。

思ったよりも褒められ慣れていないらしい後輩に、チナミは破顔した。

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