パートナー

「ユティー!」


 スクナがたった1人のパートナーの名前を呼ぶ。それと同時に、スクナの右手首を飾っていたボロボロのミサンガが光る。

 遠くで重傷者から順に怪我を回復させていたチナミが、顔だけでスクナを振りかえり興味深そうに目を細めた。皆がどこか期待を含めた眼差しで見守るなか。



 なにも起きなかった。



「え!?」

『君……』


 顔だけをこちらに向けていたチナミの口が呆れに動いた気がして、スクナはあわてて反論する。まあ向こうには聞こえていないだろうが。信用を寄せてくれているチナミの、期待に応えられないのは嫌だった。


「ち、違います! いつも……え!?」


 困惑に揺れるスクナ。スクナの後ろを風が一陣、横に抜けていった。


 スパイシーなどこか甘い香りがスクナの鼻をくすぐる。

 するりと背後から革手袋に包まれた長い指がスクナの首を、下から上へつつーと撫で上げる。

 後ろを振り向くよりも早く。それはスクナの耳に吐息を吹き込むように、かすれたような色っぽい声で囁いた。


「やっとか、スクナ」

「ひゃっ!?」


 首筋への冷たく硬い感触と耳元への囁きに、スクナは悲鳴を上げた。驚きに鳴る胸を無視してふるふると震えながら、撫でられた首を押さえて振り返る。

 視界の端でチナミが目を見開いたのが見えた。


 黒地に金の線で区切りワインレッドを配した詰襟風の軍服。金の肩章と飾緒、胸元には数多の略綬と肩から腰に1本、腰に2本の革でできたショルダーストラップ。ズボンは黒で、膝まであるスピードレースブーツはこげ茶。

 軍帽の下はさらさらとした銀髪で、襟足の一部が長いという変わった髪形をしている。まだ20にもいってないようにみえる青年で、痩身長躯の端整な顔立ち。しかしその金色の瞳は怒りと愉悦、狂気に歪められていた。氷柱を思わせる、冷たい空気を持つ硬く冷え切った男。


 そして目を引くのが、風になびく右袖。右腕がないのだ。

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