紹介
「あるところに仲の良い12人の兄弟姉妹がいた。君をそこの9番目の子どもとしよう。長男は三女の弟で、四女の兄。五女は次男の姉で長男の妹。三男、五男の間に女はいない。さて、下から4番目の子どもを私に紹介してはくれないかね?」
桃色の唇からすらすらとこぼれていく謎を、あわててメモ帳に書き写していく。
聞いたことをすぐに書かねばとはやる心に手元が追い付かず、絶対に後で見返しても読めないだろうと思われる文字。それこそミミズがのたくったようなと形容される字をメモ帳に刻んでいたが、そんなことは謎を考え込んだスクナには関係なかった。
かちかちと規則正しく音を刻む百合の卓上時計と、筆記する音だけが班室には響いていた。上をさしていた人差し指でティーカップを掴み。音もなく持ち上げたチナミはこくりと音をさせて喉を潤わせ、悩んでいるスクナに微笑みながらソーサーに戻す。
(12人の兄弟の中で自分は9番目……9? 9に何か意味が? いや、なんか。似た問題解いたことある気がするなぁ……なんだっけ、そう重要なのは中身じゃなくて最初と最後だけのやつ)
窓からはさわやかな風が入り込んで、スクナのメモ帳とチナミの髪を揺らし、本の塔を一瞬ぐらつかせて。思考を巡らせながら正直冷や汗をかいたスクナだった。
(重要なのは12人兄弟で上から9番目と下から4番目……ん? これって同じ意味じゃないかな?)
閃いたのが顔に出たのか、ボールペンを口元に当て悩んでいる様子のスクナに、チナミが声をかけた。
「わかったかね?」
「あ……は、い。一応」
「はは、自信がないのかい? 構わんさ、紹介してくれ」
指先でボールペンを弄りながら、自信なさそうにあいまいな態度で笑みを浮かべるスクナに、チナミは声を立てて笑った。
「スクナ・イクルミ、16歳。高校の健康診断の時に検査に引っかかり魔法師になりました。初解の謎はユティー、自分が6歳の時に解いた謎です! ……えっと、至らない点しかないと思いますが、ご指導よろしくお願いします。チナミ班長!」
「ご名答だ。よろしくね」
チナミはにっこりと笑顔を作ると、小さく繊細な手でぱちぱちと数回拍手をして、スクナの方に手を伸ばす。
握手の構えで止まったそれに、スクナは自分の手を重ねて、壊さないよう優しく握った。
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