初解
「まあ、よろしく頼むよ。うん、そういえば君。謎を1つしか持っていないらしいじゃないか。大丈夫なのかね?」
「あー……えっと、ユティーが、他の謎を許してくれなくて」
「ほう。
「あの、やっぱり他の人ってもっと持ってますか?」
「ああ。魔法師になると最低でもチームを組めるくらい……そうだな、5つは皆持っているよ。まあ、魔法師になる以前に謎を持っている方が稀だからね。君専用の試験だったのだが」
5つと華奢な指が示した数字に、スクナはきょとんと目を瞬かせる。幼い顔立ちによく似合う幼い仕草にチナミは口元を緩めた。
「そう、なんですか」
「それにしても、媒介はそのミサンガかな? なかなか年季が入っているようだ」
「あ、はい。そうなんです、ユティーがくれたもので」
「可愛らしいものだな。私の場合は、このロザリオと洋服、髪飾り、ブローチさ。他にもあるが大体4つしか、持ち歩かんよ」
「よ、洋服とかあるんですね」
「珍しいらしいがな。おかげで出勤時にはいつもこれだ」
美しい顔は苦笑しても美しいことをスクナは初めて知った。スクナの知っている端整な顔は、苦笑なんて愁傷なことはしない。
そんなことをするくらいなら、あっさりと復讐に転じる。なんてことはないように愉悦じみた、氷のような嘲笑で口元を歪めて踏みにじるのだろう。
なんてことを考えていると、ぼんやりしているように見えたらしい。
心配の色を浮かべた繊細な美貌がのぞき込んできた。
「君? どうかしたのかね?」
「あ、いえ。試験ではユティーが1人で撃退してくれて」
「ほほう、あの丁部隊を倒したか。君の謎はなかなか強力らしいな。難問だったのかい?」
「自分が子どものころに解けるくらいの謎でした。ユティーが優しかったんです」
「そうかい。私の初解の子はなかなか難問でね、困ったものさ。君はいいパートナーを持ったようだ」
にこりとティーカップを口に当てながら微笑まれて、スクナは照れ臭そうに笑った。
初めて解いた謎、初解と呼ばれるパートナーを褒められることは嬉しいことだった。
「謎」それは創造主から授けられるもので、この世界に通じる万物に与えられているものだという。1つの身体には5つの謎が宿っていることがこの世界に残った遊子により証明されており、謎はそれぞれに特殊な能力を有する。
現在では単に「謎」というと、魔法師が遊子から借り受けた状態のことを示すと中学の授業で習ったよなぁとスクナはほのほのと笑いながら思い出す。
さあっと窓からはいってきた風に髪を撫でられ褒められているようで、スクナは両手で持ったマグカップから一口、紅茶を含んで喉を潤した。
お茶うけとしてローテーブルの上に出されていたクッキーを1枚頬ばる。入れた瞬間口の中に広がるバターの風味が舌をとろけさせるようで美味しかった。
思わずもう1枚と伸びかけた手は、チナミから発せられた言葉にぴたりと止まった。
「まあ、和んだところで。君に1つ謎を出そうか」
「え?」
優雅に足を組みながら。碧色の瞳を細めて、チナミは意地悪げに笑って見せた。
ビスクドールに似た見た目に反して案外表情が豊かな顔。右手で絹糸と見まごうばかりの、床につきそうなほどに長い金髪に指をからませながら。
戸惑いつつも持っていたティーカップをソーサーに戻したスクナに、チナミは左手の人差し指を立ててみせた。
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