班長
ローブを脱いだチナミがそれをドア横の外套かけにかけて。そのまま部屋に付けられた簡易キッチンに赤い絨毯の上を足音をさせずに歩いて行くのを、呆然と見ていた。なぜ呆然としていたのか。それはチナミの服装故にだ。
簡易キッチンの前に設置されたお茶菓子の乗ったローテーブル。それを挟んで、2つのソファーが向きあっているのをぼんやりと見ていると。ソファーにでも座っていたまえ、と言われあわててチナミの後ろ姿が見えるほう、扉を背にしたソファーに着席する。
ローブの下は、俗にいうロリータファッション、それも甘ロリというもので。全体的に白やピンク、手首や首元のブローチはアクセントで赤を配色するというショートケーキのような個性的な色合いだった。容易く折れそうなほどに細い首にかけられている渋く、太めのチェーンには金色のロザリオが下がっている。胸元を飾っているそれが、さしずめスポンジかな? と思わせる。
似合わないのではない。似合いすぎてても呆然とするものなんだなとスクナ。知人が似合わな過ぎて呆気にとられた経験のあるスクナは、うつろな目で無意味に頷いた。
見ていたのが長かったのか、はたまた準備をするチナミが早かったのか。簡易キッチンから振り返ったチナミは、銀盆に蔦の意匠が凝らされたティーポッドと同様の模様のある2つのソーサーとティーカップ、シュガーポッドとミルクポッドを載せてローテーブルに戻ってきた。
「さて、君」
「は、はい! なんでしょうか班長!」
「ふは。いや、いいよ。私のことは皆チナミと呼ぶ。君も名前で呼んで構わんさ。こんな小娘の
「いえ、よろしくお願いします! チナミ班長」
チナミはスクナの向かい側のソファに着くとポッドから紅茶を注ぎ、ティーカップの乗ったソーサーをスクナに差し出す。それを両手で受け取りながら、スクナはあわてて頭を下げる。
さっきからあわててばかりのスクナはティーカップを持ちながら。下手をしなくてもスクナよりも年下に見える目の前のソファに座る班長を見る。
キャラメル色のソファにゆったりと優雅に腰を掛けながら、華奢な指がティーカップを傾けている。目を閉じて、こくりと鳴った喉は艶めかしく白かった。
「なにか?」
「いえっ!」
目が合って首を傾げる仕草すら可憐で、スクナはいそいで目をそらす。見とれているのがばれるのがなんとなく気恥ずかしかったからだ。
そのままの勢いで首をめぐらせ、部屋の中を見渡す。
四方の壁は全て天井にまで届く大きな本棚で覆われ、さまざまな本でぎっしりと埋めつくされ詰まっていた。ところどころかけてある梯子を見つつ。
ざっと見た限り見かけの良いように本は高さで揃えられ、作者やジャンルでは分けていないようだった。
唯一の窓際に設置された重厚なデスクの上で。分厚い数種類の「英和辞典」と背表紙に金字で書かれたそれを礎に、本の塔は組みあがっていた。
(英和辞典ってこんなに種類があるんだ)
スクナはまじまじとその礎を見る。奥にはなにか大きな紙箱が見えたが、そんなことよりも。
余白のない本棚なのにこの本の塔はどこからやってきたのかとスクナは首を傾げた。
アイボリーのカーテンが少し開いた窓からはいってきた風に揺れていて。その風が本の塔を崩し、その横に置いてあるアンティーク調の百合の卓上時計にまで第二次被害がでないか。スクナは心配でたまらなかった。
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