初めまして
片手で目を覆い、がっくりと肩を落としたスクナの様子に、少女は悟ったようだった。
不審者を見る目から一転、哀れとアホなものを見る目でスクナを一瞥して、小さく繊麗なその指で背を軽く叩いた。
「まあ、なんというか。そういうこともあるさ。ほら、うちの班室においで。私が紅茶でも淹れてやろう」
初日にドジをかまして耳まで真っ赤になっているスクナに、少女は人差し指で上を示す。
上の階に班室があるということらしかった。
少女は羞恥と落胆のあまりに反応の鈍いスクナの手を掴み、受付の裏側にある階段までまるで小さい子にするように手を引いて、そのまま階段を昇る。
その行為がさらにスクナの羞恥を煽り、足取りを重くさせていることには気づいていないようだった。
「すみません……」
「いやぁ。失敗などままあるものさ。人に迷惑をかけたわけでもなし、気にするほどのことじゃない」
「ありがとう、ございます」
「ああ。……そういえば、自己紹介がまだだったかな」
大理石と思わしき階段を昇りきり、そのまま続く床をスニーカーできゅっきゅと音をさせながら進んでいく。
なぜか、前を進んでいるはずの少女の靴音、ローブの衣ずれの音すら聞こえないのが不思議ではあったが。
窓が少ない廊下は電気がついていないとどこか薄暗くて、思わず握られている手に力を込めた。
顔は見えなかったが、なんとなく少女が笑ったような気がした。
やがて、廊下の突き当り、角部屋で足を止めると、握っていた手はするりとほどかれて、その華奢な手が赤いステンドグラスのはめ込まれたチョコレートのような重厚な扉を軽く開いた。
スクナを中に招き入れながら、少女は言った。
「初めまして、若き魔法師。私の名前はチナミ・テルヌマだ。この班の長でもある、よろしく頼むよ」
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