第3話 名も無き人形劇
私はこのノートを見つけたという女性に話を聞くことにした。
「君は、このノートを読んだのか?」
「読んだけど、ナイフって何のことかさっぱりわからないし、別れた方っていえば先生だし、先生ならなんか知ってるのかなって思って渡したんだけど……?」
「おそらくこれは私が持っているノートの続きだ。だが、もしもノートに書かれていることが本当ならば私達は『赤い人形』の思惑通りに動いていることになる。フィナーレが一体何を示しているのかは私にもわからない。間違いなく『赤い人形』は私達の行動を読んでいるだろう」
「ようするに私達は人形、ね……」
彼女のは不敵に笑っている。
——まさか、彼女が『赤い人形』なのか?——
と思ったので、疑問に思っていた疑問をぶつけることにした。
「私は君についてずっと気になっていたんだが、君は何故、私についてきたんだ?」
「え……? なんで今訊くかな? 理由なんて簡単だよ、『赤い人形』を探しに行くため。それ以上でもそれ以下でもない」
彼女は一瞬戸惑ったが、彼女の眼に狂いはない。
「そうか、ならいいんだ。今頃訊いて悪かったな、それじゃあ私はエントランスを探索してくるから、此処から動かないで待っててくれないか?」
「私は構わないよ。私は先生を信じてるからね」
「じゃあ、私は行ってくるよ」
そう言って私はエントランスに出た。
エントランスに出ると入り口から外を見ることができ、駐車場を確認できる。私は此処か入り口で会った男が帰ったかどうか確認したかったのだ。
——駐車場を見る限り、車は私の車以外は無い。私が未だ会っていない人がいるのだろうか? 仮にいるとしたら何処で私達を見ているのだろうか? そんなことは考えるだけ無駄か……では、一体、誰が……?——
私が悩んでいる時、何処からか男の声が聞こえる。男は帰ったものだと私は錯覚していたのだ。
「おや、こんな所に1人で何しているんですか? 何処であろうとレディを1人にして良いわけないでしょう」
「あなたは帰ったのではなかったのですね、顔くらい出したらいかがですか? 私だって顔が見えない状態では落ち着いて話もできませんよ」
私がそう言うと男が入り口から顔を出した。
「ええ、私は先程は帰ろうとしましたが、此処にまだ用があって戻って来たんです」
男は淡々と話している。
「そうですか、ところで、車はどうされたのですか?」
「車……ねぇ……」
男がそう言うと舞台の方から何か大きな物が突っ込んだような轟音が響いた。
「一体、何が起きたんだ……?」
「車ですよ? 舞台に誰かいたのですか?」
「ああ、いたよ。それこそ私と一緒に此処に来た女性が舞台にいた。お前は何の罪も無い彼女を殺したかもな……」
「そうですか、では彼女が死んでいるとしたらあなたは一体どうなさるおつもりですか?」
「ふざけるな! 私はお前にどうこうしようって訳じゃあない! 人としてどうなんだって意味で言ったんだ!」
「そんなこと知らないですよ、そこにいた彼女が悪い。ただそれだけじゃあないですか。そもそもまだ安否確認すらしていないのに何を言っているんですか?」
私と男が舞台に確認しに行くと、そこには舞台に突き刺さった白い車と周りに赤黒い液体が撒布している。彼女の姿を確認することは出来なかった。
「この下は物置だろうし、そこも見に行けばいいじゃないか」
「お前、一体何のつもりだ?」
「おぉ、おっかない。何のつもりって言われてもねぇ、私は私の目的を遂行したまでですよ。それに犠牲がいくら出ようが私はコラテラルダメージ、致し方ない犠牲だと思っている」
「お前1人の勝手な都合でコラテラルダメージだと……? ふざけるのもいい加減にしろ! 人を何だと思っているんだ!」
「そうですね、社会に踊らされている哀れな人形達、私は彼らを救済してあげたい。ただそれだけさ」
私は驚き、男に訊ねる。
「お前が『赤い人形』なのか?」
「いいえ、私は『赤い人形』ではない、むしろ彼を救済するために来たんです」
私は男の言う『救済』に怒りを感じていた。
「お前のやっていることは救済なんかではない! ただの殺人だ」
「あなたに私の考えをわかってくれとは言いません。ただ、あなたも私の救済の対象なのですから、あなたに30分だけ猶予を与えましょう。その間に彼女を探してあげてくださいよ」
男はそう言うと舞台に座り込んだ。
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