第2話 赤い人形の書
私は老人から『赤い人形』について訊いてますます興味を持ってしまった。何故頭の狂った傀儡師を見に来る客がいたのか、など私には『赤い人形』の謎が深まるばかりだ。
「ところで、お前はこの先の部屋が何か知っているか?」
と私に老人は訊ねるが、私はこの部屋があることすら知らない。
「いや、ここに部屋があることすら知らなかったです。力になれず申し訳ない」
「はぁ……知らないか……まぁ、お前が知ってようが知ってまいがどちらでもいい話だ。気にしないでいい」
老人は落胆したように見えた。
それから私は部屋の扉に鍵がかかっていることに気がついた。老人は鍵を持っていないか訊ねたかったのだろう。
「鍵がないならこうするまでだ」
そう言うと老人は扉にタックルして、扉に人が通れるような風穴が空いた。
部屋の中はノートが大量に収納された本棚があり、机の上には蠟燭が灯されている。
「ちっ……あいつは生きているか、それとも『赤い人形』を名乗っている誰かがいるのか……」
「あの、あなたは『赤い人形』と何か関係があるのですか?」
と私は老人に訊ねた。
「俺と『赤い人形』に関係なんかない。俺はあいつの劇を止める為に来た。それだけだ」
「劇? この劇場はもう使われていないんじゃあないですか?」
「俺はここに来る途中の山道を散策していた時に一冊の日記を拾ったんだ。日記を読んでそれが『赤い人形』の日記だとわかった。そして最後のページにはこう書かれていたんだ。——人形では物足りない、もっと刺激が欲しい——ってな」
「日記ですか、この机の上には一冊のノートがありますが、埃を被っていないんです」
「そりゃあそうだろうな。蠟燭が灯っているんだから誰かが来たことくらいわかるだろ」
老人に言われるまで私は蠟燭が灯っていることを気にもしていなかっただろう。
「俺は他のところを探してみるからノートを読んでくれないか?」
と老人に言われて私はノートを音読した。
「——随分と手荒な入り方をしたようだね。そういうの私は嫌いではないよ。只、君たちに私を止めることができるかな? もし私を本気で止めたいのならばあの舞台にナイフがあるから私よりも先に手に入れてみせてくれ。 Good luck ——」
この本を読んで私はこれを書いた人物は私達を見ている、あるいはここまで誘導されていたように感じた。
「何ふざけたことを書いていやがる、ここまで台本通りってか、ならば話は簡単だ。ナイフを取りになんか行くかよ。此処に隠れているなら見つけ出して俺が直々にぶっ潰してやる」
そう言うと老人は部屋を出て行った。私はノートを持って舞台に行くことにした。
舞台に着くとそこには私と此処に来た女性がトントン、トン、トン……と不規則に足音を立てている。
「君はずっと此処に居た訳ではなさそうだな」
「ずっと……ではないね、先生、もしかしてわかったのかな?『赤い人形』について……知ってるなら教えてくれない?」
「ふっ……いくらなんでも都合が良すぎやしないか? 後、私は先生などではない、只のサラリーマンだ」
「じゃあ、先生の持っているそのノートと似ているノートを拾ったって言ったらどうする?」
「仕方ない、それを渡してくれ、そうすれば教えよう」
「じゃあ、はい、あげるよ。私からのプレゼントだよ」
私は彼女からノートを受け取った。それから彼女に『赤い人形』について私の知っている限りを話した。
「へえ、此処にいるんだ。じゃあ、入り口で会ったあの男の人かもね」
「ところで、君は何処に行っていた?」
「エントランスの方とかを探していたけど?」
——あんなに怯えていた彼女が1人で探すなんてありえないだろ——
と私は思った。
「先生、頑張ってね。私はもう此処で先生を待つよ」
そう言うと彼女は舞台に座り込んだ。
それから私は舞台でナイフを探したが、ナイフは無かったので、彼女から貰ったノートを読むことにした。
——遅いよ、遅すぎる。もう待ちくたびれたよ。ナイフなんて元々ないし、君たち2人は今、別れて行動しているんだね、君と別れた方はどうなったのか気にならないかい? 今頃私のシナリオ通りに動いてくれていると思うけれどね。この劇のフィナーレの為にそろそろ私も動くとしようかな。それでは、君たちの活躍を最後まで見せて貰おうかな。 I believe you ——
とノートには書かれていた。
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