十二人の長老たちが政を行い、一人の〈歌姫〉がひとびとの安寧を支える国ーー
ティアは、幼くして家族と引き離され、〈歌姫〉となるべく教育された。〈歌姫〉は、この国で唯一の存在。類い稀な能力をその〈歌〉に込め、人心に平和をもたらし、国の繁栄を支えるのがつとめだ。
外の世界から隔離され、一羽の鳥だけを友として、歌の練習を続けるティア。自身の心を守るために、彼女は次第に感情を圧し殺していく。〈歌姫〉の犠牲の上に成り立つ国の繁栄は、彼女が〈歌姫〉を継いだのちも続く。その役目の非情さも、継承の儀式の残忍さも隠されたまま……。
淡々と語られる物語は、ティアがある青年と出逢った時から変化します。生き生きとした表情を取り戻していくティア。それは、救いだったのか、守るべき人々に対する裏切りだったのかーー
結末を知った今は、古代に栄えた一国の歴史を読み終えたような感慨があります。二人の魂の幸福を、願ってやみません。