第114話 偽り

いま、流行りの出会い系アプリを使っていた。出会い系といっても、一昔あったようないかがわしいものよりも、もっと結婚や恋愛を意識した出会い系だ。


Facebookの登録が必須だから、相手の友達数による安心感があるようで使っている女性も多い。友達数はなかなか偽造できないので、その数が多い人の名前は本物だろう、と思われるわけだ。


そんな中、ある男性と仲良くなり食事に行くことになった。そして、食事の最中にこんな質問を聞かれた。


- れいさんは女性ですよね?


と。


冗談か何かかな、と思ったので「多分、女性だと思います。髪の毛長いし」と返した。


すると、相手は「良かった」という言葉とともに、ある話を教えてくれた。


彼がこのアプリで出会った人がいた。話がハズんだ。ご飯に行きましょう、となった。とてもきれいな人だった。そしてその日はそれで別れ、2回目のデートに行った。そして、その二軒目で「実は私は男性なの」という話を打ち明けられたということだ。それから彼は知らない人と会うことの不信感を抱いて恐れている、と。


この話を笑い話ととるか、それとも切ない話と取るかは人によって分かれるかもしれない。ただ、私はこの話を笑えなかった。


きっと、その人は性同一障害かなにかで苦しんでいたんだろう。そして、女装なのか性転換なのかわからないけれど、女性になった。「男性なの」といっていることを考えると女装なのかもしれない。


きっとその人にとって、その告白は相当勇気がいるものだったろうと思う。相手によっては怒り出す人もいるだろう。でも、その人は打ち明けた。今までその人は何度かその告白をしてきたのかもしれない。そして、傷つけられてきたのかもしれない。


どれだけドキドキしたことだろうか。どれだけ自分が女性でないことを恨んだだろうか。そんな彼、ないし、彼女の胸中を想像すると、とても笑えなかった。


何より、私だって結婚しているという秘密はまだこの人には言えていないし。

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