第31話 100年後の町

肩が凝って、久しぶりにマッサージに行った。1時間のコースだったのだが、始まってすぐに寝てしまった。起きると、「ここはどこだ!」と思いながら、「ああ、マッサージだ」と思い返す。ただ、脳はついてこず、ふらふらしたまま。そして、着替えて夜の町に出た。


寝ぼけた頭で見る町は、なんだか不思議だった。異国情緒さえあった。「僕は日本人じゃなかったけれど、起きたら日本だった人」にしよう、と思い、その目線で町を眺めてみた。


「夜遅くに女性が1人だけで歩いている!危ない」「このイルミネーションの洪水はなんだ。楽園か!」「なぜサラリーマンは頭にネクタイを巻いているんだ。ジャパニーズカミカゼか!」と、ふらふら歩きながら想像をしてみた。ご機嫌な町が一層、ご機嫌に見えて、なんだか嬉しくなった。


次に「マッサージから起きたら、100年前にタイムスリップして2016年の町を見るサラリーマンになってみよう」と思った。100年後にマッサージがあるかどうかわからないが、1000年前にもあったのだから、きっと1000年後もあるだろう。


すると、「まだ車を人が運転してる。だせー」「なにあの電話。まだ手で持ってる。原始人ー」「ファッションださ。なんでスカートみたいなパンツ履いてるんだよ!」と、町にいちゃもんを付けまくっていたら、なんだか心がすさんできたので、辞めた。それは僕に想像力がないせいなのか、あるいは、100年後からみた今の世界がダサいのかはわからなかった。


ただ外国人の人にけなされようと、100年後の未来人にけなされようと、僕はこの町が好きだな、と思った。きっと100年前の人からすると、この町はそれなりにほめてもらえるんじゃないかと思った。夜、女性が1人で歩ける町があるというだけでも素敵じゃないか。それほど治安を守りきったんだよ。24時間のコンビニがこんなに乱立するほど仕事を頑張ったんだよ、きっと。


そんなことを考えながら、100年後はマッサージがなくなってるといいな、と思った。肩がこらないような人生を人々が歩めていると良いな、と思った。

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