2-12

いてもたってもいられず、琴子はそれまでの疲労も忘れて荷台に駆け寄り、教員たちの制止を振り切りそこに飛び乗った。


「……っ!」


息を呑んだ。

あまりにも凄惨な光景だった。

ぐったりと横たわった藤壽一の顔はすでに土気色にかわり、左の肩口を中心に血の海が広がっている。

出血口を縛ろうにも、肩から綺麗にすぱんと切断されているせいで素人には縛りようがない。

せめてもの止血にタオルがあてがわれていたが、ほとんど意味をなしていなかった。


「嫌……いやっ……! 先生っ!」


最悪の想像と限りなく近い今の状況に、琴子は泣き叫んだ。

このまま死んでいくのを見ていることしか出来ない事実を受け入れたくなかった。


その時。


なんの前触れもなく、琴子の頭にある映像が浮かび上がった。


(ーーーーーーなに、これ)


一瞬戸惑う琴子。が、すぐにわかった。

これは、目の前で死にゆく恩師を唯一救える手段だ。

そのプロセスはあまりにも突拍子がないものだったが、不思議と彼女はそれに疑問を抱かなかった。



「ーーー腕は」


「……え?」


その時一番琴子のそばにいた一眞が聞き返すやいなや、彼女は彼に掴みかからん勢いで問いただした。


「先生の腕はどこ!? はやくもってきて! はやく!!」


今までに見たことの無い琴子の表情に、一眞は一瞬言葉を失った。


「こ、琴ちゃん、何言ってーーー」

「お願い、教えて!!」


鬼気迫る様子に気圧され、一眞は無言で軽トラックの助手席を指さした。

すぐさま荷台から飛び降り、そこにあった毛布にくるまれた藤の左腕を抱える琴子。


それに驚き駆け寄ろうとしたクラスメイトたちの前に、永谷が立ち塞がった。


「頼む。何も聞かずに、お前達で藤先生を囲んでくれ。なるべく周りから見えないように」


「はあっ!? こんな時になにいってんすか! 琴子も先生もわけわかんねえよ! なにしてんだよ!!」


二人の不可解な行動と先程の騒動での混乱とが相まって、とうとう翔が苛立ちを顕に永谷に詰め寄る。

それを亮と響が両側から押さえ込んだが、納得のいかない気持ちは二人も、そして一眞も一緒だった。


「頼む! お願いだ、時間が無いんだ! 藤先生が助かるかもしれないんだよ!」


助かるかも知れない、という言葉に、4人の表情が変わった。

こんな絶望的な状況で助かるわけがないという気持ちが大半を占めてはいたが、藤に死んでほしくない思いは彼らも一緒だった。



「……わかった」


亮がまっすぐ永谷の顔を見て言った。


「フジセン、助かるかもしれないんでしょ。だったらやります」


そう軽やかに荷台に飛び乗った亮を見て、まだ納得のいかない顔をしていたほかの3人も次々と横たわる藤と、琴子を囲んでいく。

最後に永谷が荷台に飛び乗り、琴子のそばに膝をついた。

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