2-9
ようやく大和が落ち着いたのは、それから5分ほど経ったあとだった。
鼻をすすりつつ琴子からそっと身体を離したが、その右手は未だしっかりと彼女の洋服の裾を握り締めている。
じっと待っていた永谷がそっと声をかけた。
「白井、平気か? 怪我は」
「大丈夫です。少し疲れちゃっただけで」
弱々しく微笑む琴子の顔を見て、永谷は沈痛な面持ちでかすかに下唇を噛んだ。
「みんなは一旦学校の外に避難させて、今は学校用の駐車場にいる。
幸いなことに大きな怪我をした生徒もいないよ。
とりあえず俺達もみんなのいるところに向かおう。
立てるか?」
「はい、たぶん…」
「無理はするな、俺が連れていくよ。
大和、頼みがあるんだが、聞いてくれるか?」
そっと大和の肩に手を置く永谷。
大和はまだ僅かに濡れた、姉によく似た瞳を彼に向けた。
「不審者はいなくなったから、もう安全だってことをみんなに知らせてきて欲しいんだ。
きっと、みんな怖い思いをしているだろうからな」
「でも……」
大和は迷いに目を泳がせ、琴子の服をつかむ手をさらに握りしめる。
その様子にふっと笑みを見せ、永谷は大和の頭をくしゃくしゃと撫でた。
「大丈夫だ。お前の姉ちゃんは俺が責任を持って連れていく。心配するな。
それに、お前に白井の体重がかかったら潰れちゃうぞ?」
心外だと言わんばかりに担任を睨む琴子。
大和はそれを見て、
立ち上がってズボンについた砂を払い、走っていく。
その背中を見送り、琴子は自分も立ち上がろうと脚に力を入れた。
しかし筋肉は言うことを聞かず、どすんと再び砂地にお尻をついてしまった。
「ごめんなさい、まだ力入らなくて……」
申し訳なさそうに言う琴子を見て、永谷は少し考えてから一つ頷いた。
「よしわかった。まってろよ……」
琴子はてっきり彼が手を引いて起こしてくれるものと思い、右手を伸ばした。
しかし永谷は彼女の側に跪き、彼女の左腕を自分の首に回してから脚と背中の下に腕を入れ、よいしょと抱え上げた。
所謂、お姫様抱っこであった。
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