2-8
***
「姉ちゃんっ!!」
物陰から飛び出す大和。
その後ろから、永谷も走って琴子の元へと向かう。
切羽詰まった表情で、大和は姉の側に膝をついた。
彼女はひどく疲れた顔をしていたが、とくに怪我をした様子もなかった。
無事でいることを確認できた途端、緊張の糸が緩んだのか、図らずも大和は泣き出してしまった、
彼女が自分たちを逃がし、その後大男と対峙していた数分間は、大和の十数年間の人生の中で最も恐ろしく、そして長く感じられた時間だった。
姉を失うかもしれないという恐怖。
しかも、無謀に男に歯向かっていこうとした自分のせいで。
尾をひく恐怖心と安堵、不甲斐なさとが絡み合い、大和は心の底から姉に抱きしめてもらいたいと願った。その手で頭を撫でて欲しいと思った。
しかし、つまらないプライドと恥ずかしさが邪魔をしてなかなか腕を伸ばすことができなかった。
***
肩を震わせ嗚咽を漏らす大和を、琴子は目を丸くして見つめていた。
弟の涙を見たのは、久しぶりだった。
ふわふわと柔らかい遊びのある弟の髪の毛に手を伸ばし、そっと撫でる。
「ぼくっ……ぼ、くっ…………ねえちゃんが、死んじゃっ……ないかってっ……!
ぼくのせいでっ……死んじゃったらってっ……!」
しゃくりあげる大和の頭を引き寄せ、琴子は優しく彼の背中をさする。
大和がもっと小さかった頃、よくしていたように。
「大和のせいなんかじゃないよ。よく頑張ったね。さすが大和だね」
大和に声をかけていると、鼻の奥がつんとした。
琴子はそれを抑えるように深く息を吸い込む。
乾いた、埃っぽい空気。
だがその日常に近い空気に、彼女の心は静かに宥められた。
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